データ分析を企業経営に活かすことの重要性を早くから説いてきた経営学者ダベンポート。インターネットと技術の発展により、「何でもデータが取れる」今、一般ビジネスパーソンも仕事でデータ分析を使わない手はない。自分で数字を計算・分析まではせずとも、分析手法や分析結果について分析専門家と議論できるようになるためのコツを3段階6ステップで解説する。
前書き
私はデータ分析の隣くらいで生きているので、その分野の知識も齧っておいて損はないと思い、さりとて直接のデータサイエンティストになるには地頭も前提知識もないので、データ活用の為の本ということで、これなら私でも読め、役に立てることもあるかと手に取りました。
個人的に役に立つと思う点、面白い点をピックアップしてみます。
1.分析の結果、どんな意思決定がなされるか
分析を成功させる一番のポイントは、分析を何に用いて、その意思決定が誰によってどうなされるかと指摘しています。
いわゆる専門家という人種は、自分の専門分野に自信を持っていますから、それ以外の点についてあまり興味を持たないという(対外的な)イメージをもたれています。
本書はビジネスに分析を活かすということが主題ですから、そのような姿勢とは決別して、分析の目的をはっきりさせ、意思決定者を明らかにして、そこへ訴えかける内容でなければ、意味ある分析にならないと指摘します。
また、意思決定者を分析の初期から参加させることにより、分析への意識や共感を高めていけるということで「アジャイル」というワードも出てきます。
これは、分析に限ったことでは無いですが、ビジネスにおいてもそれ以外の社会生活においても忘れられがちながら、重要な点であると思います。
別の章になりますが、ナイチンゲールとメンデルの対照的な例があり、分析結果を活かせた例とそうでない例を、歴史の中から語られており、わかりやすいと思います。
2.過去の知見を徹底的にレビューする
何かと人は新しいことをしたいと思い、その方が評価されると考えますが、「あなたが取り組もうとしている問題は、あなたが思っているほどユニークではない」と厳しく指摘されています。
だからこそ、1から何かを始めようとするのではなく、過去の知見を探すことで、問題解決へのアプローチやモデルの候補を見出せるとしています。
(もちろん、全く同じものがあれば、それ以前の問題として分析不要ですが)
3.洗練されたアルゴリズムより、豊富で良質なデータが勝る
個人的には納得できる面が多いのですが、意外に思う人も多いかもしれません。
本書では、ビジネス界だけでなく、NBAなどの例も紹介されていますが、本質的に重要なデータの量と質が揃うことであることを示しています。
本書では、ビジネス界だけでなく、NBAなどの例も紹介されていますが、本質的に重要なデータの量と質が揃うことであることを示しています。
データ分析の隣人といった感じの私としては、豊富で良質なデータを提供するということ意識して仕事に臨みたいなと思い、当たり前の感もありつつ、ポイントに挙げてみました。
4.どのような分析手法も直接的には非構造化データを分析できない
もちろん現時点でという但し書きはあるのでしょうが、ビッグデータ界において「バズる」という感じである非構造化データですが、実は分析に(そのまま)使えていないということです。だから、「バズる」ということでしょうか。
そういうネット界隈の人気というものは、得てして技術面からのものであり、ビジネス的に意味があるのかというのは、当然二の次なわけですが、今の分析とかそういうものが、一気に塗り替えられる可能性があるということと、もう一つは過剰に流行に乗るのではなく、「良質なデータ」だけをきちっと揃えることがビジネス的に大事なわけで、コストをかけて非構造化データに固執するのではなく捨てるということも、大事なのではなかろうかと、思索を巡らせる点に感じました。
5.優れた分析専門家は、「データでストーリーを語る」ことができる
1.にも通じる面がありますが、人間は物を理解する上でストーリーを必要する生き物だと私は考えています。
本書では、聞き手のレベルに合わせて「取るべき行動と行動したことで予想される結果について結論付ける」ことをよいとしている。
そしてそのためには、利害関係者との議論が必要としている。
繰り返しにはなりますが、日々の仕事生活で意識すべき思考ということで、改めて強調します。
6.分析的思考に最も求められるのは、確率と偶然性の法則を理解すること
では、本書の主題に戻って分析的思考を身につけ、データを活用していく為に必要なことは何かと考えると、数学というのが一般的に思いつくものであるが、本書は数学以上に重要なことと指摘していることがあります。
ナシム・ニコラス・タレブの『まぐれ』を引用し、人々は「偶然性にだまされる」と指摘しています。
数字を出されると信じる人というのは、私の感覚でも多く、また「数字は騙しに使われる」と理解している人でも、気を抜くと騙されるわけで、難しいものです。
そして統計を理解するにも確率は基礎になるわけで、確率を理解しているかというのは、その人の知的水準を測るバロメーターではないかと思う。
本書では「たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する」を推奨していたので、今度読んでみようかと思います。
7.効率的な定量的決定というものは「人間関係から生まれるものなのだ」
1.と5.の繰り返しですが、本書では「数学者の中でもトップクラスの人が、数学ではなく、人間関係が重要だと宣言するなら、私たちは注意を傾けるべきである」と記されています。
別の章で、分析と創造力についても記載もありますが、数字やデータ、分析というものは重要であることは疑いようもないわけですが、その上で最後は人間の英知が重要だと改めて感じます。
そう考えると日本企業がコミュ力を重視するのも、あながち間違いではないのかもしれません。ただ、彼らの考えるコミュ力は、決定的に誤っているので、日本企業は衰退しているわけですが。
付記:定量分析の3つの段階と6つのステップ
本書内で度々でますので、読み解く為に引用しておきます。
第一段階:問題のフレーミング
1.問題認識
2.過去の知見のレビュー
第二段階:問題の解決
3.モデル化
4.データ収集
5.データ分析
第三段階:結果の説明と実行
6.結果の説明と実行