2020年4月27日月曜日

インデックス(市場ポートフォリオ)に対する長期投資の考察

はじめに


最近の相場を見て思うことがあり、「ファイナンス理論全史」という本を読むことでそれを言語ができそうな気がしたので、ここでアウトプットしてみます。

インデックスというと、沢山あるETFは大体なんらかのインデックスに連動しているわけですので、ここは敢えて市場ポートフォリオと付けました。
アメリカならS&P500あたりのことを指します。商品名でいえば、VOOならVTI、あるいはVTでしょうか。

インデックスの長期投資における理論的根拠というのは、現代ファイナンス理論になるわけですが、これらについては、いくつかの「仮定」が含まれています。理論は、現実を単純化、抽象化したものだからです。そこから導かれる結論は、誤りというわけではありません。
(そもそも将来のことは誰にもわからないので、現時点でそれが正しい、誤っているとは言えませんが)


ここでいう長期とは、景気サイクル(概ね10年~15年程度)を複数回経過するということで、つまり30年以上とします。


インデックス長期投資が正しい理由



  1. 市場は効率的なので出し抜きはできない。出来ないなら平均に乗るのが正解で、いじくるとリスクとリターンの比率が崩れるだけで、メリットはない。
  2. 短期的な変動はともかくとして、「長期的には」マーケットは右肩上がりなので、とにかくインデックス投資でコツコツ積み立てることで、コストを最小化し、時間を味方につけることで、資産を増やしていく。
  3. 市場はランダムウォークであるため、厳密なマーケットタイミングを読むことはできない。よって、定期的に積み立てていく方が良い。
  4. 市場全体に分散されているので、リスクは消しようがない最小限のものになっている。


まず、この4つの大前提があるのだと思います。
その中で、赤字の部分は私が仮定だと思う部分です。

1つ目の市場は効率的については、「ファイナンス理論全史」を通読されるのが良いのですが、効率的ということに対しての反証はいくらかあります。というか、それなりの意識をもって相場をウォッチしていれば、効率的だと本気で信じる人はいないと思います。
但し、「自分」がそれを出し抜けるかは別です。

2つ目の長期的にマーケットが右肩上がりかという点については、シーゲル本を読まれるのが良いと思います。
少なくとも「過去はそうであった」ことは間違いありません。
シーゲル本によれば、バブルの天井で買っても10年で戻り、30年もたてばプラスだそうです。そんなに含み損を見て待っていられるのか、お金を必要とするところでクラッシュが起こったらどうするのか、といった問題はありますが、一応この仮定は正しいと言えば正しいです。
また、米国株式の歴史を見れば、その間に多くの条件が変わっています。それでも、概ね7%程度のトータルリターンで右肩上がりということは、それなりに期待する理由があるようにも考えられます。
7%でヨシ!とするかは人によるでしょうが、インデックスの「長期&定期積立」では超えるのは難しいでしょう。

3つ目のマーケットタイミングについては、最近でもそうですが、全く読めていません。これは能力や知識量による面もあるとは思いますが、実際の問題として読み切れないものは仕方ありません。
但し、その解決方法が、「長期&定期積立」だけは限りませんが

4つ目の分散については、細かいことは「投資と金融がわかりたい人のための ファイナンス理論入門」を読むのがよいでしょう。
問題は分散された「リスク」というものが、個人投資家にとって重要なのか?という点になります。


インデックス投資をやめる理由


  1. ここ数年は不効率の連続であった。過剰なGAFAMへの集中、跳ね上がるPER、思惑だけであがる一部の株式とそれに引っ張られるインデックス、世界の状況を無視して上昇する相場。
  2. 長期的に右肩上がりと言い切るには、不透明な世界状況。
  3. 暴落が一度起これば何でも下がる中で、バイアンドホールドの効率の悪さとハイリスク性。
  4. 分散の方法は、本当に市場ポートフォリオしかないのか。
先ほどの正しい理由に対比させてみました。

1は、最近私が不効率だと思ってきた市場の現象です。
2018年以降ずっと違和感を抱えて現金ポジションを抱えていたので、まあ見事にしてやられているのですが。
実際問題として市場ポートフォリオ=時価総額インデックスでは、GAFAMの影響が大きすぎると思います。
GAFAMが素晴らしい企業であることを否定するつもりはないのですが、益回りで考えた時にこれが投資に値するリターンがあるのかということについては、疑問を持っています。
しかし、インデックス投資はそのようなことは考えませんので、高値を是正する日が中々来なかったりします。

今の全体的なPER水準にも疑問があります。いわゆるリスクフリー金利(=国債)を考えれば、今の全体的なPER水準も正当化できるとおっしゃる方もいます。
確かに、国債がほぼ0%ならば、株式が3%,4%しか益回りがない状態でも、十分なのかもしれません。
私がこれを気にするのは長期投資だからです。短期投資として、ある程度益が乗れば売り、含み損が出れば切るというのであれば、別に問題ありません。しかし、長期投資ということは、ずっと金利が0%のはずはなく、金利が上がる時期が来ることもあるでしょう。
それも飲み込むほど成長して、適切なリターンをもたらしてくれるのかというと果たしてどうでしょうか?
或いは金利とは関係なく長期投資として、市場参加者が30年先まで右肩上がりを続けると思い、この益回りを感受している(=効率的だとしている)可能性もあります。
ただ、それほど株価が強い(高PER)時代は過去の例からはすでに外れているので、「過去」を理由そのままインデックス投資が正しいのかというと、それは再考する余地があると考えるべきでしょうか。


2は、過去だけを以って長期的に右肩上がりというのは、条件の違いが目につきます。
ざっと思いつくものを上げると

  • 金本位制から離脱してからの年数は、実はそこまで長くない。
  • 金利が低い(今だけかもしれませんが)。
  • 人口動態が右肩上がりとはいいがたい(アメリカはまだ続きそうですが)。
  • 環境問題、人口増加による食料問題などの成長を阻害する要因がある。
あたりでしょうか。
条件の違いを考えれば、右肩上がりになると考えるより、「わからない」と考える方が適切なように思います。

金融や経済の歴史というものを勉強するなかで感じるのは、金本位制時代と今は通貨の供給量などの条件が違うと考えるようになりました。
これが投資の結果にどうつながるのかということ言えないのですが、少なくとも条件としては違うと考えたいです。

また、金利も特にリーマンショック以後は、低金利・緩和が染みついており、金利を上げることへの政治的ハードルはこれまでにない高さとなっているように思います。
金利が低いことに適応してPERが高くても気にせず買うという人が、金利が高い時代のリターンを見て長期投資は大丈夫だと根拠にしているのならば、それは矛盾と呼ぶべきことでしょう。

人口動態については、米国はまだ増加するでしょうが、日本や欧州は減少になるでしょう。リーマンショック後は、チャイナの経済成長が世界を引っ張ってきた面もあります。しかし、そのチャイナも人口動態で見れば少子高齢化国になっています。この問題は、次なる増加国もあるので、そこまで致命的ではないかもしれません。それでも、リーマンショック後のチャイナのように、それらの国がなれるのかというと現時点では不透明に感じます。候補は、インドやベトナム、インドネシア、ナイジェリアあたりでしょうか。

環境問題は、某環境少女が喚いたりしているのは無視するとしても。
新しい技術を生み出す契機になる、企業に効率化を強いるという意味ではプラスの要素もあるでしょう。
しかし、化石燃料が使いづらいということも、チャイナウイルスとは別の構造的な問題として原油安につながっています。原油安が続けば、今の市場をそれなり以上に支えているオイルマネーが消える可能性を考えなくてはなりません。
また、当然ながら、産業構造の変化にも繋がっていくでしょう。


3は、まさに3月の暴落を見ていて、私は現金が7割くらいあったので特に気にせずみていたのですが、フルインベストメント派の中にはネットから消えた人も散見されました。単に気絶投資法とやらを実行され、全ての情報を遮断しているのかもしれませんが。
もし、2が前提であるなら、気絶しても報われるかもしれません。そうだとしても…ですよ。自分の資産が30%、あるいは半減、最悪9割減になって、30年後戻るからへーき!と言えますか?
私は、それは普通の考えとは思えません。
確かにやることは少なく、ミスも起こりにくいため初心者向きと言われますが、(場合によっては)資産を半減させても指を咥えてみていなさいというのは、人に勧め難いものがありますし、自分も耐えられない可能性があります。
さらに、厳密なマーケットタイミングが読めないとしても、投資家として情報を収集し分析をしていれば、厳密には無理でもある程度の割高・割安というのはわからないものではないです。
ハワード・マークスの振り子理論ではありませんが、過去の例から見て右肩上がりが信じられるのならば、過去の例からみて景気のサイクルが来るということも信じてもよいのではないかと思います。
ということは、割高な時にポジションを軽くしておくことで、急速かつぴたりとタイミングが読めない下落に備えるということは不可能ではないと考えます。もちろん、それで利益が減る可能性があることは甘受しなければいけません。

自分が持っている株が上がりすぎている、逆に自分が買いたい株が下がりすぎているということは、そんなに難しいことではありません。PERや益回りは、「いつ」下がるかを教えてくれません。なぜなら相場は行き過ぎるわけで、高PERでも良い企業と思われればドンドン上がっていく場合があり、割安で実力があっても不人気や知られていなければ安いままということはあります。
また、PERや益回りは、あくまでも利益の予想に対して算出されるものですので、予想利益が変われば変化するという点もあります。
それでも、株式に期待できるリターンとリスクフリー金利の相関からして、ある程度の割高なり割安は読めると思います。そのある程度でも、バイアンドホールドを続けるよりは、効率を上げられるのではないでしょうか。


4は、分散投資はある意味で正しいかもしれませんが、市場全体ということは、所謂「クソ」な株が多数含まれることも事実でしょう。S&P500は日本の東証一部よりは優れた企業の集まりであることは確かでしょうが、GAFAMと比べれば「クソ」な企業が含まれていることは否定しがたいです。GAFAMも割高で期待リターンが低くなっているという面では、「クソ」かもわかりませんが…。

分散投資はリスク(ボラティリティ)を下げるということになっていますが、同じように優れていてかつ値動きが一方向ではないという前提がここには含まれると思います。
しかし、実際の市場ポートフォリオには、「クソ」な企業も一杯ありますし、この暴落でもわかるとおり、下がるときは皆下がるのです。ある程度「幅」はあるにせよ。
ということは、市場ポートフォリオだのリスクフリー資産だという面倒なことを考えても大した意味はなく、現金と株でいいのでは?という話になり、株の中で大体同じ方向に行くのならば、「クソ」を並べてリスクが下がった気分を味わうより、優良株だけを並べる方が正しいのではないでしょうか。

VIGというETFがあります。これは連続増配を元にスクリーニングするものです。この基準が正しいかどうかは別として、これによって一定の「クソ」企業は除去されています。その結果、リーマンショックもチャイナウイルスショックも含め、市場連動のETFに比べるとアウトパフォームしています(期間の取り方により変わります)。

もう一つは1で触れたとおり、GAFAM集中により偏重しているため、本来の意味での分散投資になっているのか?も怪しいとも感じます。

強引にまとめると1銘柄しか持たない時、自分の選ぶ数~数十の優良株を持つ時、スマートベータETFでスクリーニングされた時、市場ポートフォリオの時で、ボラティリティが数学的に減るとしても、個人投資家として抱える(資産を失う)危険性にはそんなに大きな違いがあるのかということについて、現代ファイナンス理論とは別の結論を持っていいのかと思います。
1銘柄しか持たなければ、その会社が不正決算でもしていたらアウトです。もしくは何らかの事情でその企業が競争力を急速に失ってもそうでしょう。
銘柄数をある程度増やせば、それは改善されると思います。ETFでも然り(セクターETFは除く)です。ですが、それと市場ポートフォリオの差というと、私はあまり無いように感じます。
もっと言えば市場ポートフォリオで分散するのではなく、債券やREIT、コモディティも含めた分散でないと意味がないのではないかと思います。その様なアクセス性のよい商品はないと認識しています。
そう考えると、市場ポートフォリオには、「クソ株」が混じっているというデメリットばかりが目立ち、分散投資というメリットはそこまでではないと考えます。


最後に、ブラックスワンの生みの親であるタレブの言う通り、過去から未来を推測するということは、ブラックスワンを見逃すわけで、なんらかの理由で今の株価が90%減になって向こう30年たっても今の水準に戻ってこないということは否定できません。
むしろ、そうなっている国に住んでいるのが我々日本人ではないですか。
だからこそ、投資家を名乗るならどんな戦略をとるにせよ、常に出口を考えておいた方が良いと思います。