2019年10月21日月曜日

投資で一番大切な20の教え(ハワード・マークス著)

投資で一番大切な20の教え
世界最大級の資産運用会社の創業者が、長年にわたり顧客に送り続けてきたレターを元に、成功する投資哲学を伝授。


はじめに


そろそろリセッション等と言う声も出てきて、随分前から現金比率を高めて機会損失に陥っていたわけですが、改めて参入の時期が近いと見て、復習がてらこの本を再読してみました。
著者は、オークツリーというジャンク債などへの投資を得意とするファンドの設立者です。
といっても、そのような技術の本ではなく、投資哲学の本になりますので、どのような投資家にとっても有用な本です。

最も価値のある教訓が得られるのは厳しい時期だ。その意味で、いくつもの異常事態に遭遇してきた私は「幸運」であった。

そのような教訓が一冊にまとまっている本と言えるでしょう。

あらすじ


本書は、リーマンショックを初めとする様々な危機の中から筆者が学び取ってきた教訓であり、筆者の会社が発行した当時の顧客向けレターの抜粋を交えながら書かれています。
以下、ポイントを簡潔にまとめてみました。

リスク


リスクとは、一般により高いリスクを取れば高いリターンが得られると言われます。しかし、筆者はリスクの高い資産が確実に高いリターンを生み出すというなら、その資産は高リスクと呼べない。正しくは、より高いリターンを提示しないと資本が集まらない資産であると説きます。
つまり、リスクの高い投資とは、先行きがより不確か(リターンの確率分布の幅が広い)であり、リターンが低下もしくは損失が出る可能性が高いということです。

そして、リスク=損失の可能性は識別できるものではなく、生じた損失だけが識別可能です。良い環境というものは、その日に現実になる可能性のあった環境の1つに過ぎず、悪い環境が生じることはないということを示すものではなく、結果としてリスクコントロールは不要だったとしても、リスクをコントロールする必要がないということではないのです。


サイクルと振り子の概念


サイクルとは、好況から不況までに市場において発生する一連の流れを表します。
そして、その流れがあることを多くの投資家が忘れた時に、利益や損失が生み出される機会があるとします。

似た概念に、振り子があり、投資家の心理を元に恐怖と強欲といった相反する要素を軌道の両端とします。

これらの概念が示すことは、「いつ」「どこで」「何がきっかけで」ということを予測することができないとしても、行き過ぎた市場というものは、巻き戻されるタイミングがあるということを示します。
だからこそ、投資家は今現在において、どの地点にいるのかということを理解しなければなりません。


まとめ


重要なことは何度でも言うというスタイルで書かれているので、同じ事を違う表現や違う例で何度も繰り返されているスタイルが、くどいと見るとか重要なことなので…と見るかはその人次第ですが、如何なる分野の投資をするに当たっても、もっと言えば投資と関係ない人生にあっても役に立つ本ではないでしょうか。

それにしても、この本を読んで今に改めて意識をめぐらすと、今は金余りが過ぎてリターンに飢えている状態であり、「リスク軽視が広がると、より大きいリスクが生じる」ということに見事に当てはまっているように感じます。

となると意識すべきは、サイクルであり振り子なのですが、さてこれがいつどうなるかというとそれは難しいのです。
筆者がリーマンショックを危惧して2004、2005あたりに警戒のレターを出して、後から早すぎたというとおり、危機を感じてからそれが現実になるには一定のタイムラグがあるのです。
そこでバフェットの言うとおり、見逃し三振はないのだからずっと待てばよいと考えるか、機会損失があるから目先の損失は致し方ないとしてシステマチックに積み立てながらその時を待つのか。
これは、自分で決めなければいけないでしょう。

もう一つ。
サイクルや振り子について、人間がやることであり強欲と恐怖という心理があることによって成り立っている概念です。
今の時代には、過去の教訓を得た時代になかったAIやプログラムがあります。
では、もうサイクルや振り子の概念は、古いルールであり、今までとは違うのでしょうか。
しかし、相場が加熱し、反転する直前の最終番には、「今までと違う」と言われるものです。その意味では、常に過去の教訓に目をやって、今の状態を理解することにつとめ、その時に備えておくのは正解ではないでしょうか。

どこまで進んでも「お金を欲する」ところから投資は始まるわけで、全てを冷徹に進められる人間は一握りであり、冷徹に進められない人間が使うAIやプログラムは、むしろ振り子の動きを加速させる結果になるのではないかと愚考するのです。