2019年10月5日土曜日

コモン・センス(トーマス・ペイン著)

コモン・センス
アメリカの独立を「理」と「利」の両面から大胆かつ鋭く論じたトーマス・ペイン(1737‐1809)の『コモン・センス』(1776)は、刊行されるや空前のベストセラーとなり、その半年後に発表された「独立宣言」の内容に多大な影響を与えた。歴史を動かしたまれな書物の一つと評価されている思想史の古典。「厳粛な思い」「対話」「アメリカの危機」を併収。

はじめに


コモン・センスというと歴史の授業で多くの人が一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
アメリカ独立の気運を盛り上げ、独立宣言にも影響を与えた、歴史を動かした本です。
実際にその中を読んだことがあるという人はどのくらいいるでしょうか。

あらすじ


まずは、政府というものの起源と存在についての一般論を述べた後、当時の宗主国である英国の憲法について意見から始まります。
その後、王政と世襲制につてい痛烈な批判を加えます。
最後にアメリカの現状をまとめ、独立へ向けて論じていきます。

その中から、気になった箇所を見て行きます。

政府一般の起源と意図とについて、合わせてイギリス憲法について簡潔に意見を述べる


社会と政府とを混同してしまって両者の間にほとんど、いな全く区別をつけようとしない著述家たちがいる。ところが両者は違っているばかりか、起源からしても別なのだ。社会はわれわれの必要から生じ、政府はわれわれの悪徳から生じた。前者はわれわれを愛情で結合させることによって積極的に幸福を増進させるが、後者は悪徳を抑えることによって消極的に幸福を増進させる。

有名な言葉なので聞いたことがある人も多いでしょう。
本書は体系的な理論書ではないので、細かい理論は書かれていないのですが、感覚として理解できるのではないでしょうか。
社会というものは、人間が1人で生きていけないが故に、自然発生的に作られていったもので、これは人間にも動物にもあります。
しかし、人間には悪い者もいるし、そうでなくても利害や感情がぶつかったりすることもあります。
そこで、ルール(法律)を作って規制し、守らせるための存在が、政府でしょう。


王政および世襲制について


全く自然の理由も、また宗教上の理由もつけることのできない、もう一つの非常に大きな差別がある。それは人間を王と臣民に差別することである。男・女は自然が設けた差別であり、善・悪は神が定めた差別である。しかしある人間の一族がどうしてこの世の中に現れて、あのように他の人間の上に君臨し、新しい種族であるかのように区別されているのか(後略)

この後には、王と王政がもたらしたことが続いていきます。
今でこそ、王というものが前面に出るような統治形態は殆どありませんので、歴史の1ページとしてむしろ王が残っている国が美化されるような面もありますが、 実際にその統治を受け、さらにそれが善政ではなく戦争や搾取などの災厄をもたらすものであれば、このような意見になるのは当然だと思います。


われわれは王政の害悪の上に、世襲制の弊害を重ねてきた。王政がわれわれ自身の堕落であり、またわれわれを軽蔑するものであるとすれば、権利の問題として主張されている世襲制は子孫に対する侮辱であり、詐欺である。なぜならすべての人間は本来平等であって、だれも生まれによって自分の家族を永久に他のすべての家族よりも優越した地位におく権利をもつことは許されないからだ。(中略)王位の世襲権の愚劣さを示す最も有力な自然の証拠の一つは、自然がこれを認めないということだ。

王政と世襲制というのは、事実上一体かしています。個人的には、こちらの方が有害だと感じます。それに対して、「子孫に対する侮辱であり、詐欺である」というのは厳しい表現なれど、真を突いているように思います。
著者が指摘せずとも分かるとおり、ある人が持つ名誉なり財産なり能力は、必ず子孫が同じかそれ以上を持つわけではなく、人間を不適当な方向へ導くことが多いからです。
そして、最大の弊害は一度確立されると廃止が難しいということも指摘されています。

まとめ


今回は思想上重要だと思う点を挙げてみました。一方で、アメリカ独立への熱量を上げていくその文章は抜粋ではなく、全文を読んでみるべきだと思うので、是非本を手に取ることをおすすめします。

アメリカ独立戦争の頃に批判されているような轍を未だに踏んでいるのが、現在の日本のような気がします。
王政というものは、事実上経験していないようなものだと思いますが、一方で世襲というのは山ほど溢れかえっています。
確かに世襲というのは一定のメリットがあることは確かです。要するに英才教育がされる分得ではないか、帝王学というものがあると認めるということです。
しかし、実際にはどうだろうか。セクシーとかわけの分からないことを言っている中身の薄っぺらい大臣がいれば、それを任命したのは経済最優先と言いながら景気に大きなブレーキをかける増税・緊縮財政を続ける総理大臣という。
世襲を続ける毎に劣化しているのではないかと思う有様で、やはり文明の力の違いというものを感じる部分もあります。