2021年10月20日水曜日

2021年の衆院選

はじめに


自分がどこに投票するかを検討するために、公約を確認していくだけです。
その中で政党要件を満たす党で見ていくのが普通かと思いますが、実際には20~30程度の党がいくつかありまして、その様な党に投票しても現実的な効果が無い(全員当選したと仮定しても国会での影響力が限定的)と思いますので、除外しておきます。また、共産党については破防法に基づく調査対象であり民主主義の政党と見なさないため、除外します。
そのため、本稿では、自民党・公明党・立憲民主党・日本維新の会の4党のみと致します。

また、選挙は本来「人」を選ぶものであり、党を選ぶものではないということは、全く同意ですが現状の制度では、実質的に党を選ぶものとなっているため、党単位で政策を見た上で、個々の小選挙区で議員を見て、人物・行動・党政策と思想のブレ等から妥当かを判断するのがよろしいかと思います。

各党の公約


自民党


こちらのサイトを参考とします。
重点政策は、武漢肺炎対策、新しい資本主義…と続いていきますが、憲法改正がその一番後ろですね…。

公明党


こちらのサイトを参考とします。
重点政策は、子育て・教育、デジタル・クリーンによる経済再生、武漢肺炎対策のようです。

立憲民主党


こちらのサイトを参考とします。
重点政策は、武漢肺炎対策、1億総中流、カーボンニュートラル…と続いていきます。
まっとうな政治というのは政策なのか?という疑問は沸きますが。
(もっと言えば彼らがまっとうなのかは甚だしく疑問)

日本維新の会


こちらのサイトを参考とします。
重点政策は、国会・行政改革、税制・規制改革、社会保障・労働改革…と続いていきます。


政策の吟味


それでは各党の政策を吟味していきたいと思います。
本来であれば、戦略の階層でいうところの政策の上位概念である「世界観」から見ていくべきなのですが、それをまともに示している政治家・政党は皆無であるため、政策からの吟味になることをご容赦ください。
経済政策・国防・外交・社会保障・憲法改正の各分野についてみていきたいと思います。なお、武漢肺炎対策については、特にめぼしいものはなく、政党間で大きな違いが出せるものではなく、また今後終息する方向と考えるため、今回は吟味しません。
なお、点数は各項目100点満点とします。


経済政策


自民党は、新しい資本主義を掲げていますが、概略をまとめると、危機管理投資・成長投資・分配のようです。
筆者の印象としては、投資と言う名の「財政出動」が続く一方、規制緩和や減税・税制の簡素化への言及に乏しく、所謂大きな政府という印象を受け、これは安倍氏・菅氏の時代からの展開と受け取れます。投資を拡大すること自体は歓迎しますが、政治家あるいは官僚が適切な投資をできるとは考えにくく、民間の活力を活用する方向にならないものかと感じます。

また、今後問題になる可能性がある点として、企業が長期的な視点に立つよう、コーポレートガバナンスや企業開示のあり方を検討、具体的には四半期開示について触れています。このような制度を世界のデファクトスタンダードから離れた形にすることは、特に海外の投資家が日本市場を忌避することにつながりかねないのではないでしょうか。

財政出動そのものは評価しますが、方向性が間違っている項目が多く、20点とします。


公明党の経済政策では、個別事項の言及しかなくマクロな視点での政策に乏しいですが、これは自民党が担当ということなのでしょうかw

その中の方向性で見ると、中小事業者・飲食・観光・環境・デジタル分野にばら撒くという内容になっています。基本的には自民党の方針に付け加えるようなものであり、懸念点についても同じです。

そのため自民党と同じく20点とします。


立憲民主党は、実は以外と自民党と同じようなことを言っていたりします。党名を伏せて見られたら区別は…さすがにつきますが。
特に目立つのは、低所得者への現金給付と所得税・消費税の時限減税です。
現金給付の問題点は、時間・コストがかかることやそれによって何かを生み出すことがないのです。2020年時点では早くキズを癒すという発想でしたが、2021年になってもそれはどうかと思います。時限減税については、「時限」ではなく、恒久が望ましいですし、何なら消費税は廃止で結構です。

一方、増税にも触れており法人税の累進課税化、所得税の最高税率アップ、金融所得課税の累進課税化などが挙げられています。

ちなみに、公益資本主義を掲げており、その中には先ほど自民党で出たようなコーポレート・ガバナンス改革、短期主義経営の見直しが挙げられています。

ここは10点とします。多少、富裕層から取るという色が濃くなっていますが、その分金融緩和・財政出動の方向性が薄まっていると認識したためです。


日本維新の会はここでは大きく毛色が変わってきます。
消費税こそ時限かつ5%への減税ですが、所得税・法人税の減税を挙げており、税制の簡素・公平化に触れています。
財政出動についても触れていますが、偏重という印象はありません。

維新の会の良くない点は(他党も挙げていますが)、教育の無償化くらいでしょうか。教育の無償化は、費用対効果のよい政策とは思えないです。誰に対しても高等教育を受けさせれば、高度な仕事ができるというのは幻想です。また、「無償化」が生むモラルハザードは目に余るものがあります。真に優秀な学生について、学費を奨学金などのことはあっても良いと思いますが。

後は、私が見た資料が詳細版でなかったのかもしれませんが、具体的な数値目標がありません。「税制の簡素・公平化」と言われれば、二重課税や複雑な控除が無くなるのかと「想像」できますが、実際には書いていないので何とも言えないのです。

方向性については概ね賛同しますが、具体性が不足していることもあり、60点とします。


国防・外交


まずは自民党から。
外交については「自由で開かれたインド太平洋」等、日米同盟を基軸として、自由主義・民主主義・資本主義の各国と連携するスタイルは変わらないようです。
北朝鮮については、拉致被害者の即時帰国を求めること、核・ミサイルの放棄を要求すること。
支那については、ウイグル・チベット・モンゴル民族・香港等の諸問題と書かれていますが、肝心の主語である支那あるいは中共と言う文字が詳細な箇所にしかありません。非難決議の時の行動を見るにやる気のなさを連想させます。南朝鮮についても同様に詳細のみの記述でした。

国防については、防衛力を抜本的に強化、領海侵犯に対応、弾道ミサイル対する対処能力、重要土地等調査法の実行などが並びます。経済安全保障という概念がでてきたことは評価できるかもしれません。戦略物資や特許・技術の情報の管理、インフラの整備、サプライチェーンの確保、具体的な業種だと半導体関連の強化が並びます。

支那についての主語がないこと、露国についての言及がないため大幅減点は避けられないでしょう。また、国防については全く具体性に欠けており、今までの対応からすれば何も変わりませんということと理解せざるを得ません。
少なくとも、20世紀後半から国防の最重要ポイントである核に対する考え方、エネルギー・食料・原材料等のアウタルキーの確保、シーレーンの確保等は、当然考えられてしかるべき事項ではないかと考えます。

政権与党ということで厳しく見る向きもありますが、30点とします。


公明党については、核なき社会、支那を一衣帯水の隣国という誤った認識、露国との共同経済活動の具現化等論外の内容が続きます。
0点です。


立憲民主党は、支那や日米同盟については自民党と大差ない内容が続きます。QUADにも触れられているなど、意外といっては失礼ですがまともにも読めます。
しかし、辺野古移設、非現実的なリベラリズム的平和創造外交、核兵器廃絶、トドメにアジア太平洋・アフリカ諸国から積極的に留学生と高度人材を受け入れということで、やはり論外。
0点です。


日本維新の会は、リアリズムで安全保障と世界に向き合うとしており、防衛費のGDP1%縛りの撤廃を掲げています。外交方針は日米同盟を基軸とし、英・印・豪・台を重視するようです。
防衛費の1%ルールは全く非現実的なものであり、これの撤廃は大きく評価されるべきでしょう。一方で、何が敵国なのかと言う点については、記載がなかったので、その点は問題です。
どの党も支那と北朝鮮については言及するので紙面の限られたマニフェストであってもなければ、劣る印象を拭えません。
記述不足と具体性欠如がありますが、1%ルール撤廃を評価し、40点とします。


社会保障


自民党は、皆保険制度維持を掲げながら全世代が安心できる制度にするとしています。総合的な改革としかないので、具体的なことがわかりませんが。その他、緊急医療体制や医師の偏在も触れています。
少子化対策については待機児童や子供の支援体制の確率を挙げています。

はっきり言ってこれは議論の余地がありません。現状の制度の問題点がそもそもわかっていないと言わざるを得ないわけです。現在の年金・医療保険の体制が、なぜ持続的と思われていないのか考えたことが無いのでしょう。
世代間格差の是正、肥大する医療費の抑止といったことへの解が一切ないのです。政権与党が出したものがこれとは呆れかえる他ありません。
0点です。本音はマイナスですが。


公明党は、(経済ではなく社会保障に入れておきます)子育て世代への現金給付と出産一時金を重点に掲げています。一方、人生100年を見据えた社会保障の詳細は、医療や病気について結構細かく書かれています。これは政策のレベルを越して作戦のところまで行っている気がします。(すみません、私では是非が判断しかねる部分も多いです)
一方、先ほどの問題提起に該当する解と読める箇所はなさそうです。
一応この分野を重視する姿勢は買って、20点とします。


立憲民主党は、ここでも経済のところで同じ姿勢で、社会保険料や後期高齢者医療制度の応能負担を掲げています。一方、出費自体の抑制には関心が無いようです。
この分野にもちゃんと特大の地雷が仕掛けられていまして、社会保障などのモノサシを変えるとしています。興味深いので全文抜粋します。
公正な配分により格差を解消し、一人一人が幸福を実感できる社会を確立するため、社会保障などのモノサシを変えます。①社会保障の効果を測るモノサシは、格差是正とQOLを重視します。②豊かさを計るモノサシは、GDPからGPI(真の進歩指標)へ変更します。③税制を評価するモノサシは再分配を重視します。④将来経済推計のモノサシは、過大になる政府試算から国会に設置する機関による試算へ変更します。⑤官僚を評価するモノサシは、国民のための仕事を評価するようにします。
誤った認識によって物差しを変えてしまうというのはとても恐ろしい話です。
もちろん現状の物差しが正しいかと言う議論を否定するつもりはありませんが、明らかに特定の思想に沿うような変更であり、このような恣意的な物差しを使っては、政策がゆがむことは間違いないでしょう。
少しだけ賛意を示すなら、①の点QOLを重視して、やっても殆ど延命できないかむしろマイナスな手術や投薬、延命治療等が減ってくれればいいかもしれないです。
0点です。本音はマイナスですが。


日本維新の会は、給付付き税額控除やベーシックインカムを「負の所得税」実現のために検討するとし、医療制度については出来高払いから受診の質・価値への支払いへとなっています。
当方は以前から述べている通りBI推進派ですので、基本的には維新に賛成します。一方で、医療制度や年金制度はそれとは別枠(保険制度なので)であり、「負の所得税」実現時にどうするのか、当然その変化に大きな影響を受ける人(特に高齢者)にどうするのかということへの説明が必要になるでしょう。
また、「出来高払いから受診の質・価値への支払い」というのは、さすがにちょっとこれだけでは判断できないものがあります。
こちらも60点としておきましょう。


憲法改正


自民党は憲法改正を「目指す」とはっきり書いています。
現行憲法の基本原則を堅持しつつ、自衛隊明記、緊急事態条項、合区解消・地方公共団体、教育充実を加えるとしています。(かつての憲法案はどこへいったの?)

「基本原則を堅持」と言う言葉から推測されることは、9条はそのままにして後ろに3項を付けるか2項を書き換えるかということでしょう。
これでは支那や露国、朝鮮のような侵略国家に対し、有効な対応が取れるとは思えません。
平和主義を掲げる以上、日本から先制攻撃はないと敵国は安心できるわけです。抑止の大原則は国家のパワーである以上、それを縛るような憲法では、独立国家としての自存自衛を達成できるとは言えないでしょう。
私見ですが、衆院と参院のあり方についても触れて欲しいです。合区解消という言葉から、一票の格差から参院を除外して地域代表にするということなのではないかと考えられます。
現状、機能として衆参はカーボンコピー、あるいは一軍と二軍の状態です。一院制にすることで国会議員を減らす、あるいは全く別の制度にする、一例として衆院は全国比例にして国の代表、参院は各都道府県から4人(半期改選)で地域代表とするなどです。
後は、改正の発議を2/3から1/2にするのも必要でしょう。

ここは70点としておきます。


公明党は、従前の主張ですが加憲を主張しています。
9条については堅持するとし、自衛隊は国民に許容されていることを理由に、議論を続けるとします。加える内容は、緊急事態、新しい人権、環境保護などです。

「国民に許容されていること」と敵国に対して有効な軍隊であることは全く別のことなので、議論は筋違いと言わざるを得ません。
また、憲法というものを勘違いしているようですが、基本的に憲法は政府権力が主権者たる国民のコントロール下に置かれるために、権力を規制する内容になります。「国及び国民の地球環境保全の責務」とありますが、国や地方自治体はともかく、国民に対する義務を記載する場所ではありません。当然、現行憲法の国民の義務も削除されるべきです。

基本的に護憲側なので0点とします。


立憲民主党は、一応絶対憲法を改正しないという立場ではないようです。とはいえ具体的な改正等の指摘はなく、細かい憲法解釈の話ばかりが続くため、改正の意思はないものと見なします。
0点です。本音はマイナスですが。


日本維新の会は、教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所を明記するとしています。

教育の無償化については先ほど述べた通り、適当な政策ではありませんし、憲法に記載するレヴェルとしては細かすぎるというところです。

次に統治機構改革ですが、これは具体的に地方自治体に権限を寄せて、大局的に動かなければならないことについて中央が担当するという方向性であり、彼らの出現経緯からすると本命はこれでしょう。
私見では、反対します。市区町村ごとに細々とした対応を行うことはまず効率的ではありません。正直言って、今の地方自治体に権限を寄せるだけの、国民的支持・人材やリソース、能力があるとは思いません。
国会議員の選挙の投票率は惨憺たるものですが、輪をかけて地方の首長や議員の投票率は壊滅的です。無投票も多発しています。既に地方自治体は機能不全と化し始めている中で、なぜ彼らの権限を高めようとするのでしょうか。
まずは、地方自治体がちゃんと機能するようになってからでしょう。

憲法裁判所については、中立です。実害が無いと裁判所の判断が得られないことにより、内閣府法制局の権力が強くなりすぎている側面があると思われます。
一方で、過去の違憲裁判では統治行為論で逃げるケースも多く、裁判所が適格にかつ中立的に判断ができる環境が作れるのかと言う点を注視したいです。

自民党では記載のあった安全保障については維新は特に記載がありませんでした。国防のところで加点したものの、現行憲法と自衛隊の関係や他国への影響をどう考えているのかわからないのは厳しいです。

改憲姿勢を評価しての10点とします。


まとめ


各党の点数をまとめるとこの通りです。


残念ですが、投票に値する政党なしという評価になります。本来であれば。
ちなみに当方の選挙区は一応、自民vs立憲vs維新ですが、自民と立憲の候補が何回も戦っていて、比例復活込みでどちらも現職であり、当選可能性を加味すると実質2択という状況なので、30%vs3%の選択になります(支持率と近いなw)。

最後に、この結果をもって維新を推すとか維新に投票するとかは別の問題です。
冒頭でも言いましたが、掲げている政策がよくても実現可能性は別の問題であるということ、ある議員ないし政党を落選させるためであれば、最悪の一歩手前の選択でもすることは、当然あることだと思っています。

皆さんも政策は概要だけでも読んで、白票でもいいので投票所には行きましょう。
2021年10月16日土曜日

自民党と言う宿痾

はじめに


先日、自民党の総裁選が終わり、岸田総裁となりました。
その結果、岸田内閣が誕生しました。

自民党の総裁選を見て、私が思ったこととしては、自民党というのはどのような政策を掲げていても実現できない(変革できない)存在だということです。

内容の善し悪しはさておき一定程度の変革を実現した小泉内閣や安倍内閣という異端が直近長かったこと、野党があまりにも話にならないことから、自民党に政策実現を望む人が多いと思います。
しかし、それは間違っているということ、結局のところ自民党を克服しない限り、日本は良くならないということを指摘したいです。
自民党を漫然と選ぶことは老衰を目指すようなものです。
(今の野党を選ぶと、すぐに死んでしまいますが)

自民党の問題点


  1. 世界観・政策の幅広さ
  2. 政治家「業」の存在
  3. 利権構造との癒着
  4. 官僚との癒着
今回は、なぜ自民党は「政策を掲げていても実現できない(変革できない)」のかという点にフォーカスし、主要な原因として考えられる点を挙げました。

世界観・政策の幅広さ


まず自民党は、選挙互助会です。
なぜそのよう認識するかというと、政党は共通の政治的を持つもの集団ですが、自民党の議員を見れば「政権与党の議員である」という政治的目的以外を共通する部分を持ち合わせているとは考えられません。

国家の基本的な骨格である、皇室についても、総裁選で高市氏と河野氏や野田氏では大きく異なっていました。それ以外についても全体的に政策に違いが多く、”保守”的な層から野党に近いような”リベラル”的なところまでブレが大きいです。(何故か減税を主張する候補はいませんでしたが

これが問題な最大の理由は、有権者が投票をするときに困るからです。
保守的な思想を持っていてそのような候補を当選させたいと仮定しましょう。
自民党以外の野党に、保守的な思想を掲げ、かつ実現可能性のある選択肢というのは見当たりませんので、ここで自民党に入れると決めたと仮定します(そのような野党の状況も問題ではありますが)。当然ながら小選挙区には、基本的に1人しか自民党の候補はいませんが、その人が河野氏や野田氏のような人物であった場合、党の公約は保守的であったとしても、候補の思想はそうではないわけで、政策実現の期待が大きく低下することが考えられます。

同様に、この総裁選も国民からの選挙を経たものではありませんが、実際に彼らが当選したのは安倍総裁の元です。しかし、安倍氏と岸田氏は世界観・政策では異なる部分があるように思われますし、実際に転換的な側面を強調しています。総裁が変わることは党内の手続きなので結構ですが、それによって公約や行われる政治の方向性が変わるというのは、民意を適切に反映するという観点から言って望ましくないことは言うまでもありません。


次に、政治構造を考えてみますと、総理総裁になったとしても、その人の意向というのは中々徹底されるものではありません。民主主義は独裁ではありませんから、国民から選ばれた議会の中で多数を取らなければ、政策は実現できないわけです。
先ほどから述べている通り、自民党が多数ということは、どういう政策を求める国民が多数なのかということをぼやかしてしまいます。

また、自民党内でも総務会という全会一致による意思決定機関があり、ここを通さないと法案は出せないことになっています。しかし、先ほどから述べている通り自民党には幅広い政策・思想の議員がいるため、その中で全会一致を取るというのは(全議員の全会一致ではないとはいえ)、容易ではないということです。


政治家「業」の存在


さて、今まで説明してきたように、「政権与党の議員である」という政治的目的以外を共通する部分を持ち合わせていない政党には問題が多いわけですが、それが何故存在するのかと言う点を考えてみましょう。

そこで出現する1つ目の要素が政治家「業」です。自民党の政治家は(野党にももちろんいますが)世襲議員の比率が異常に高いです。先ほどの総裁選でも高市氏以外の候補は世襲に該当しますし、菅前総理こそ世襲ではありませんが、自民党に限ると安倍、麻生、福田、小泉の各氏と世襲議員の総理が続きます。森氏は父が町長ですが国会議員ではないようです。ここまでいくと政治家といのは家業ということになります。


これがなぜ先の問題と関連するのかと言えば、家業として続くためには、「旨味」がなければいけません。収入が低かったり、労働環境が厳しい職業にも家族と同じ職場・仕事をするケースはあると思いますが、親は子供を良い職業につけたいと思うのが当然の心理ですから、必然的に上位の職に世襲が発生しやすいものと考えられます。

つまり、野党より与党の議員の方が政治的影響力が強く、さらに自民党の中でも中枢に行けば行くほど影響力が強まるわけで、そういう「旨味」のある仕事ほど「家業」になりやすいのです。
これは実際に世襲議員の比率でもはっきりわかる傾向で、野党より自民党のそれが抜きに出ています。

そのような議員たちにとってみれば、自分たちの旨味が減ることが問題であるため、改革を行った結果、既存の支持者が離れたりするリスクは取りたくない一方、現状の仕組みでは一部の支持者を繋ぎ止めておけば、議員としての地位は守れるため、全体を考えて行動を起こすインセンティブに乏しいのです。

そもそも政治家業の後継者は、別に自分が何かを為したいからその職業を選んだわけではなく、親がそれを望んだからという点にしかなく、国民の奉仕者としての意識は乏しいのではないでしょうか。
同じ世襲でもビジネスならば環境の変化でダメになる可能性もありますし、頑張ればもっと大きくすることもできます。しかし、政治家の世襲は、特定の支持者さえ掴んでいれば落ちるリスクはなく、ちょっとやそっと頑張っても当選回数と血統がものを言う世界ではどうにもなりません。国民は民主主義と世襲が相容れるものなのか、候補を見てよく考えるべきでしょう。


利権構造との癒着


国会議員を「旨味」のある家業たらしめる要素の一つとして、利権があります。
議員の歳費や報酬は、大衆からすれば高いものですが、ビジネスとしてみればショボいと言わざるを得ません。しかも、議員であれば金額は変わらないので、増やすこともできません。

そこで登場するのが「利権」です。政府は民間に対し規制をかけるため、許認可権を持ちます。実際に行政的なものですが、これは人が行うことですから、当然政治的な意思が介在するものとなります。とりわけ自民党は長く政権与党にありますから、官僚との距離が近くなることは当然でもあります。

政治家は選挙区民や団体、企業のバックアップを受けて票や資金を集める一方、彼らの望む政策を実現していくわけですが、それだけではなく彼らの有利になるよう許認可権を使っていくのもまた仕事になってくるわけです。

もっと直接的になっていくと、一家の政治的影響力をベースにファミリービジネスを優位に進めたり、逆にファミリービジネスのために国益に反する立場や行動を取ることもあるわけです。


これが問題になるのは、全体にとって最適であったり必要な政策は、特定の団体にとってのファーストではないことが多いからです。
その筆頭は恐らく国防政策です。日本国の独立が脅かされる状態となっては、経済活動どころではなくなっていることは想像に難くないわけですが、日本の国防を大幅に強化することで、経済的メリットがある団体・企業というのは非常に限られるでしょう。
残念ながらその影響力では、十分な国防をするためのプッシュにはならないでしょう。

もう一つは、団体の力、つまりは金と票に大きく左右されることです。
お金の力で決まることが平等でもなければ正しくもないことは言うまでもないでしょう。
しかし、団体票の力で決まることも正しいとは言いかねます。これは組織力によって決まるというわけで、実際は団体の一部が決めた方針にどれだけ下が投票行動として反映できるかですから、輿論とは言えません。
これが如実に表れたのが、武漢肺炎でずっと飲食店を時短させ続けたことなのではないでしょうか。団体力が弱いから、世論やメディアに対して、やっている感を出すためのスケープゴートにしたと考えられます。

そもそも、岸田政権は格差是正を掲げていますが、その自民党が利権の側に立っているわけですから、当然そのような政策を実現できるという期待ができないわけです。


官僚との癒着


最後に官僚との癒着です。
自民党は非常に長く政権を担っているため、官僚との距離は近くなっている他、官僚出身の議員も多数います。
岸田氏自身は官僚出身ではないですが、宏池会は財務省・大蔵省人脈とのつながりが濃く、宏池会から総理になった人物として池田勇人、大平正芳、宮澤喜一の各氏は大蔵官僚から政治家に転身しています。


ここで強調しておきたいのは、本来の政治家と官僚の関係というのは、政治家が決めた方針を官僚が実行していくというものです。
何度も本ブログでも言及している「戦略の階層」で言えば、政治家が世界観や政策を決め、官僚がそれぞれの職位に応じて大戦略~戦術までを実施していくということになります。
これは、政治家が民意の審判を受け国家に責任を取る一方、官僚は基本的に終身雇用で安定された立場から実施に専念するという役割分担です。

この役割分担が崩れて官僚が政治の側に進出してくると、民意の反映というのが怪しくなります。理由は簡単で、官僚は民意によって選ばれる存在でなければ、解雇もできません。また、官僚は上意下達の組織体系となるため、求められる資質が全く異なります。

特に軍事分野ではシビリアンコントロールと呼ばれ、政治家による軍人の統制が最重要視されますが、他の官僚においても基本的には同じことであります。
過去に田母神俊雄氏が政府見解と反する論文を民間に発表したことで、航空幕僚長を更迭された件がありました。

一方で各政党の公約を否定するような政治的意図を持った(選挙前なので無いとは言えない)、しかも内容も典型的財務省理論であり、会計や金融に関する視点ゼロの間違った「論文」なるものを出しても、野放しになりそうな矢野氏を見ると、岸田自民党が財務省とズブズブというか、官僚をコントロールするはずの政治家が官僚にコントロールされている実態が伺いし得るかと思います。


では、官僚と政治家がつながると何故変革が出来ないのかと言う点について考えましょう。
官僚はヒエラルキー構造になっていて、組織内で出世するためには過去または現在の枠組みに沿って仕事で成果を出し、上層部の人間に引き上げてもらうことで出世できるわけです。上層部に引き上げてもらうためには、顔を売っていく必要がある一方、嫌われないことも重要です。しかし、新しいことをするには反対者は必ず出るものなので、自然とチャレンジしなくなります(T芝除く)。
また、一つでもミスをすれば簡単に評価は下がることも追い打ちをかけます。

つまり、現状維持を是とする人間ばかりが上に来ることになります。
このような組織ではイノベーションが生み出される確率が極めて低いことは日本全体の宿痾ですが、官僚組織については、あくまでも政治の決めたものを「実行」する組織ですから、それ自体は問題ありません。

このような現状維持と省益の拡大としての権限強化にしか目が向かない官僚と近すぎたり、依存したりする関係では、国民の意思や権利、利益から離れていくような政治しか起こらないのです。

どうしたよいのか


問題を指摘するのは簡単ですが、それに対する解決策を提示するのは常に難しいものです。
しかし、この問題はさらに難しいのです。一般の有権者には小選挙区に出馬するごく一部の政治家から選ぶしかなく、実質的に自民党系候補とサヨク系野党候補しかいない選挙区が大半だと思います。文句があるなら選挙に出ろという人がたまに居ますが、普通の人が出馬しても全くお金も足りないと思いますし(供託金が仮に払えたとして、満足な選挙活動をするには金銭的負担が大きい)、供託金が戻ってくるラインまですら票を集められないと思います。普通に生活する人にとって、当選する確率がゼロに等しいところで出馬するというのは非現実的な話です。

かといって選挙に行くことを放棄してしまえば、組織票と過激な信者の票だけで政治が動くことを加速するため、選挙に行かないことは推奨できませんし、何なら有権者としては義務と考えるのが妥当だと思います。

私自身解決になるとは思っていませんが、個人で実践していることを言えば、白票です。投票場に行って何も書かずに投票箱にぶち込むことです。はっきり言ってしまえば、全ての候補に投票する価値無しということを投票しているわけです。
これは投票率にカウントされますが、無効票ですので誰かの投票になりません。
意味があるのかと言えば微妙ですが、あまりにも無効票が多ければ、該当選挙区の当選者も少しは考えるかもしれません。

もう少し直接的な方法を取るとすれば、あえて非自民候補に投票することでしょうか。
サヨク系政党が論外なことは事実でお灸を自民にすえたつもりが、国民自身にお灸がすわっていたというのが2009年政権交代の顛末でしたので、私自身は全く非推奨ですが。

現実的には、小選挙区ならば候補者を見極めて自分に近しい候補がいるならばその候補へ、いなければ白票。比例区は自民党以外で近しい政党があればその政党へ、いなければ白票というのが妥当なのかと思います。

結局立てている候補の数によるので、自民党をもっと保守政党にしたいという意思を持っていても、ドラスティックに変えることは出来ないと思います。
それでも地元の候補者がリベラル的であれば落とすべく野党へ、保守的ならば自民党へ入れ、比例復活がしにくくなるよう比例は他党か白票で、選挙結果としてリベラル的なものは求めていないのだということを自民党に伝えていくしかないでしょう。


今日本に置かれた環境からするとあまりにももどかしい話ですが、せめて一人でも多くの人が衆院選で機会を無駄にしないで欲しいというところです。



武漢肺炎対策に関する記事です。
武漢肺炎が示す日本民主主義の危機と克服への道筋

参院選前に日本の今後を論じてみた記事です。
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