2020年3月28日土曜日

マルクス自身の手による資本論入門(ヨハン・モスト原著 カール・マルクス改訂)

マルクス自身の手による資本論入門
生前、マルクス自身が改訂・加筆をおこなった唯一の『資本論』の入門・解説書。1873年、ドイツ社会民主労働者党の活動家モストは、獄中で『資本論』第一巻を抜粋しながら平易化した『資本と労働―カール・マルクス著『資本論』のわかるダイジェスト』をつくった。


はじめに


カール・マルクスと言えば、共産主義の生みの親として一般には考えられていると思います。実際のマルクスは、ヘーゲル哲学を出発点として、社会主義革命に到達しています。
その中でマルクスが資本主義を観察し、批判的に研究した結果が資本論となります。

本書はその資本論を、ヨハン・モストという扇動家が労働者向けにしたパンフレットが元となり、マルクス自身が手を入れたものになります。
内容は、資本論の第1部のものになり、資本の生産過程を論じられている部分になります。


あらすじ


商品と貨幣


資本主義における富を表す形態の1つとして「商品」が存在するとします。
この商品には、人間の何らかの欲求を満たす「使用価値」と商品同士を交換する際に測る「交換価値」の2種類があるとされ、このうち「交換価値」は商品を作り出されるときに費やされる労働からなっているとします。

つまり、
原料   →    商品
     ↑労働
ということになります。
そして、生産物の交換は、貨幣に仲立ちされることにより、生産物→貨幣→生産物と転化していきます。買うための生産したものを売りと売った後に必要なものの買いが行われます。商品のこのような運動の全体が、商品流通となります。

資本と労働


では、資本家とは何かというと、貨幣が流通の外部に取り出され、留め置かれると、蓄蔵貨幣の形成が行われ、その結果として貨幣→商品→貨幣という流通形態が発生します。
貨幣が流通の起点になっている場合、後に出現する貨幣は何度でも同じ運動ができることになり、これが資本家になるのです。
資本家にとっては、商品の使用価値が直接の目的ではなく、ひたすら利殖するという無休の運動が目的であり、抜け目のない貨幣蓄蔵者であるとします。

この利殖を上げるためには、流通の外部で剰余価値を生み出さなければなりません。
市場で消費することによって価値を創造する商品こそが労働力であるとします。

人間が労働力を売りに出すためには、労働力を自由に処分でき、自由な人格を持って、労働力を時間極めで売ることができる必要があります。労働力を一度きりで売り切ってしまえば、それは奴隷です。
このように自分の時間を労働市場で売る状態になるには、
  • 自分の労働を商品に体現させるために必要な生産手段
  • その商品が売れるまで生きていける生活手段
の2つが奪われた状態が必要になります。
これは、自然法則で生まれたものではなく、歴史的変遷や経済的・社会的変革の結果創造されたものだとします。

また、労働力という商品も他の商品と同様に、生産に必要な労働時間により決まる価値を持ちます。これは所持者の(繁殖を含めた継続的な)維持のために必要な生活手段の価値と等しいことになります。

資本主義的生産の基礎


貨幣所持者は、生産手段と労働力を買い、労働力に生産手段を消費させることで、生産手段を生産物に変えます。

これらの生産物は、生産した労働者ではなく、資本家のものとなり、資本家は市場向けに売却しますが、ここで重要なのは、商品を生産するのに必要な生産手段と労働力の価値の総額より、大きな価値を持つ商品を製造することである。
つまり、剰余価値である。

この時に剰余価値が発生するためには、労働力がそれ自身の価値を埋め合わせるより必要な時間よりも長い時間働かせるしかないということである。

資本の再生産過程と蓄積過程


資本家が1000ターラー(かつて欧州で使われていた通貨の単位)を持っていたとして、毎年200ターラーの剰余価値を手に入れた時に、この200ターラーを消費せずに、同じ条件で生産に使うとすれば、50ターラーの剰余価値を得られることになります。
この時投下する資本(リスク)は、他人の労働から手にしたものだけであり、労働者を搾取すればするほど、ますます多くの労働者を搾取することが容易になります
このようにして資本を増大させていくことを資本の蓄積という。


考察


資本論が書かれた時代と現代では、状況が大きく異なることや、議論の前提条件となっている「商品の価値は、原料+労働力」という部分に違和感を覚える人は多いと思います。

その中でも資本主義社会というものの本質をついている部分というのが、赤字で示した4点に集約されているのではないでしょうか。
再掲すると
  1. 資本家は利殖を増やすことが目的である。
  2. 労働力も商品の1つであり、その価値は再生産を含む維持に必要な金額である。
  3. 資本家は剰余価値を生み出すために、労働力の価値を生み出すより長時間労働させる必要がある。
  4. 労働力を使えば使うほど、より資本が蓄積される。
ということになります。

資本論が現代の我々に教えてくれることは、実現の現実性がない社会主義というよりも、どうやって資本主義を乗りこなして良い人生を送るかということではないでしょうか。

たとえば、会社の言いなりになって朝から晩まで働くことは、会社のためにはなっても、そこで働く貴方のためではありません。
会社と労働者は、単に契約関係にいるだけであり、利害は一致しないということを知っておくべきです。
私はスキルを高めて頑張ることを否定しませんが、一方で労働者の価値が本来どうなっているのかといえば、「再生産を含む維持に必要な金額」に過ぎないのです。
スキルを高めても、そのスキルを高め維持するために必要な金額が払われるかどうかでしかないのです。高いスキルを学ぶためのお金、それと同程度のスキルを持つ労働者を再生産するに必要なお金が必要なので、スキルのない労働者よりちょっとだけ増えるだけです。

さらに一歩進むと、労働者である限りは、永遠にこの立場からは変わらないのであれば、資本家にならなければいけません。
もちろん、資本家に一直線になる方法は、少なくとも我々が狙ってできるようなことの範囲ではありません。
しかし、マルクスの時代と違うのは、そのような「資本」の区分所有者になることが簡単になっていることです。
それが株式投資なのです。株式投資をすれば(ほんのごくわずかだけれども)、自分より遥かに優秀な人間を搾取して、分け前に預かることができるのです。

株式を所有し、部分的に資本家としての収入を手に入れれば、単なる労働者とは違い、気に入らなければ仕事を辞めても生きていけるし、仕事とは別にやりたいことがあればそれに挑戦できるのです。
単に労働者の地位に甘んじるより、ちょっとでも良い人生を送れる可能性が上がります。
2020年3月11日水曜日

投資と金融がわかりたい人のための ファイナンス理論入門(冨島佑允著)


はじめに


元々私は、効率的市場理論には否定的でありますが、知識の幅を広げておくことは悪くなく、いわゆる「プロ」の考え方を取り入れるかはともかくとして、知っておくことにより生かせないかと思い、入門書を探しました。

あらすじ


第一章がプライシング理論について、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法が説明されています。
その内容を元に、債券や株等の価値を計算する方式を説明しています。
投資家であれば将来キャッシュフローについては、当然の内容だとは思いますが、わかりやすく振り返りができるので、基本を押さえるのには良いかと思います。

第二章がポートフォリオ理論について、CAPM(資本資産価格モデル)を中心に説明されています。
簡単に要旨を抜粋すると
  • 資産を無リスク資産とリスク性資産に分ける。
  • リスク性資産は市場ポートフォリオに従った割合で保持する。
  • 市場ポートフォリオは、リスク性資産の相関を考慮し、最もリスクとリターンの良いライン(効率的フロンティア)である。
  • 個人のリスク性向による調整は無リスク資産とリスク性資産の割合で行う。
という内容になります。
そして、CAPMでは、市場リスク(ボラティリティ)のみをリターンの源泉となるリスクと考え、個別証券のリスクは分散することで無くなるとします。
さらに、無リスク資産から得られるリターン(ex.米国債の金利)引いたものを、市場リスクプレミアムとします。

CAPM以外の理論としては、リターンを考えずにリスクの情報を元に決める、最小分散ポートフォリオにも言及があります。

第三章がリスク管理について、ここではボラティリティが高まった場合にどの程度の損失が起こるかという観点について、株価の日々の変動が正規分布に従うとして、計算します。1σで68%、2σで95%がカバーされます。

それを超える「非常事態」の考え方として、バリューアットリスク(VaR)が取り上げられています。これは、確率の極めて低いもの(信頼水準以下)を除外した場合に、予測される最大の損失額を指します。例えば1%を信頼水準とすれば、起こる確率が1%未満の事象が除外され、99%の範囲内で最大の損失額となります。

実務ではそれを超える異常事態はあり得るため、ストレステストという形で極端な変動に対するリスク管理行っているようです。

第四章は統計分析として、Excelを用いてこれらの計算をする例が乗っています。


あとがき


ポートフォリオ理論におけるCAPMの要点は、以下の2つだと感じました。
  1. 効率的市場仮説に従うこと
  2. リターンの源泉はリスク=ボラティリティであること
要するにこれを理解し、正しいと考えるのかどうかということが、まず1つのポイントだと思います。

この点については、筆者は中立的に書いており、限界があることや一定の仮定に基づく学説であることを記載しています。
投資をしている方でも意外とわかっていないかもしれない、プロの考え方の概略を知ることができ、平易な文体なのでおすすめです。




なお、私は、上記2つにはいずれも懐疑的です。
この点は、ハワード・マークスの考え方が真理に近いと考えます。


投資で一番大切な20の教え(ハワード・マークス著)
2020年3月7日土曜日

株式投資(ジェレミー・シーゲル著)

株式投資―長期投資で成功するための完全ガイド
大恐慌、ブラックマンデー、ITバブル崩壊を乗り越え、いま「百年に一度の金融危機」からも立ち直ろうとしている株式市場で、永続的に資産を積み上げるための知識と技術を凝縮。待望の改訂版。


はじめに


以前ご紹介した「株式投資の未来」の前に書かれた本ですが、こちらはもう少し理論的な本になります。
しかし、シーゲル教授のスタイルはどちらも同じであり、過去のデータを元にして、あらゆる切り口でリターンを確認していきます。
そして、株式こそが真に長期投資に相応しいものであることを明らかにしていきます。


あらすじ


ばっさり省略して、個人的に気になったポイントだけを記載します。
本書の内容からして、全部読むべきだと考えているからです。
その中で個人の判断で未来に当てはまるであろう歴史を選び取るべきです。
(決して面倒になったわけではありません)

  • 仮に、資本主義経済が衰えた時に、どの資産が価値を維持するかは不明だが、歴史的には、経済的・社会的混乱期に、国債の価値は株式に比べて大幅に低下する傾向がある。
  • 長期投資では、明らかに株式の利回りが、債券を上回るが、短期では異なる。1~2年の投資では、5年のうち3年しか、株式が上回らない。一方、主要な株価のピークに投資しても、10年投資すればわずかに長期債を上回り、30年投資すれば長期債の4倍になる。
  • 強気相場と弱気相場を取り巻く様相は、昔と何ら変わらない。株価が上昇すれば楽観論が幅をきかせてさらに上昇すると主張され、いったん崩れて弱気相場に入ると悲観論がはびこり、もっと下落するという主張が正当化される。
  • 企業の規模とバリュエーション(配当利回りやPER等のこと)に注目することで高い長期利回りを獲得できるチャンスがあるが、 常に市場を上回る戦略がないことも認識すべきであり、これらの戦術は忍耐が必要。
  • 投資家が歴史から教訓を学ばないときは必ず報いを受ける。
  • 為替ヘッジは、為替リスクを相殺する方法として魅力的に思えるが、長期投資では必要がない場合もあり、ときには不利益をもたらす場合がある。ヘッジのコスト(金利差)が高くつく場合があるからである。
  • ほぼ例外なく、株価は景気後退期の前に下落し、景気回復の前に上昇する。実際に景気後退が始まる前に、株式のトータルリターンは8%以上も下げている。
  • 過去に株価が大きく動いた原因を検証すると、重大な政治・経済ニュースに関連付けられるのは1/4にも満たない。
  • 世界的なできごとは短期では市場にショックを与えるかもしれないが、長期では利回りを損なわない。
  • 自らの期待を過去の範囲内にとどめること。
いま、下がっているときなので、それを意識したようなピックアップかもしれません。

考察


シーゲル教授の主張は明確であり、長期投資であれば株式に勝る投資先はないということです。個人的には自明ですが、それでも暴落時に再度読み直すことで、「歴史の裏付け」という安心感を得ることができます。
しかし、未来を考える際に、過去をどう捉えるかというのは難しい問題です。
私見は、ツイートで述べているので参考までに示します。


シーゲル本からは、市場平均をアウトパフォームし続けることの可能性を考察しています。銘柄選定については、前回の株式投資の未来で述べていますので、今回は「機会を狙うこと」について考えてみたいです。
実は正解(?)は既に本の中に記載されており、景気の山と谷を1か月前に予測して短期国債と株式を切り替えた場合、バイアンドホールドのリターンを毎年1.8%、30年で60%上回るという結果です。

この場合における投資家にとっての問題というのは、後付けで判定される景気の山なり谷では売買の判断はできないため、市場に居ながらにしてそれが可能なのかという点、もう一つは実際の景気の山なり谷と株価の山なり谷には、若干のズレがあることです。
まず、本書では「景気の転換点を正しく予測する」ということ自体は非常に困難なことが、過去の経済学者やエコノミストの動向から示されています。
先行指標と呼ばれるものもありますが、結局は再現性のある手法はないと言ってよいでしょう。

さらに、株価の変動は何も景気の動向だけではありません。それを物語るのが「過去に株価が大きく動いた原因を検証すると、重大な政治・経済ニュースに関連付けられるのは1/4にも満たない。」という事実になります。
また、様々なニュースについても、市場がどう動くかは、市場が何を織り込んで値をつけていたかであり、エコノミストの「コンセンサス」と言ったもので判断できる部分もあります。シーゲル教授が「油断のならないゲーム」と表現する通り、個人投資家には現実的な解はないように考えます。

このことが示すのは、日々の株価の予測が如何に現実的ではないということです。
遠く過ぎた過去の株価を見たときに何が理由で動いたかがわからないのに、何が起きるかさえもわからない未来の株価が予測できるとは、普通考えられないからです。

一方で、本書で示されているような(債権と比較し)高いリターンは、そのような技術を必要としていません。万が一、株価がピークのタイミングで投資したとしても、10年以上の時間があれば、債券のリターンは超えることができます。
この過去を頭に入れ、まずは相場にお金を入れ続けることから、個人は進めていくべきものと考えられます。

しかし、それでも人間は市場に勝ちたいと思うのが、本能ではないでしょうか。
そこで最後に一言「自らの期待を過去の範囲内にとどめること。」です。
その上で勝ちたいという思いを込めて本書を読めば、また別の見方ができると思います。