2020年1月13日月曜日

株式投資の未来(ジェレミー・シーゲル著)

はじめに



米国株クラスタ(の一部)でバイブルとなっているジェレミー・シーゲル教授の「株式投資の未来」を、時間のある正月に読んでみました。
今更ながらですが……。
今回は要約少なめ、考察多め?で行きます。


あらすじ


「成長の罠」として、企業の規模や利益といった数字上の「成長」と投資家がそれによって得られる「リターン」は異なるということを、1957年~2003年までのデータを用いて、紹介していきます。
  • 1957年に組成されて以降に追加された900銘柄は、平均すると当初の500銘柄の運用成績を下回る。
  • 1957年当時のS&P500を買い、その後に採用された銘柄を1つも買わなければ、S&P500連動投資家よりも、よい成績となる。
  • 長期的に高い運用成績を達成した銘柄は、大抵の場合において配当再投資が最大の理由となっている。
  • リターンを左右するのは、企業の増益率ではなく、実際の増益率が投資家の期待をどの程度上回るか。この期待を知るにはPERが最良で、S&P500のうちPERが低い銘柄を選ぶと市場平均を超えた。
  • この「成長の罠」はセクター単位でも、国単位でも同じ結論になる。
以上の5点が著者の調べ上げたデータによる事実です。

その結果として、投資家のリターンは時価総額とは別であり、投資期間が長くなるほどこの両者の相関性が弱くなり、配当がリターンの源泉になると主張します。

この後の章には、成長株やリターンの実態を記し、この成長の罠を補完したのちに、筆者の主張である「グローバル的な解決」やポートフォリオ戦略について書かれているが、あえてその部分は省略します。
示唆に富む内容ではありますが、既に20年近く前のものであるためです。


考察


この本は過去のデータから実に明快な結論を引いています。
しかし、投資の世界(だけに限りませんが)というのは、常に未来に対して決断をしていかなければならないです。
そこへ過去からの結論をどう当てはめていくのか、その判断は凄く難しいものです。

例えば、「1957年当時のS&P500」をそのまま持ち続けると、S&P500に連携し続けるよりリターンが良いというのは事実ですが、実際のところはその中に買収やスピンオフで化けた株もあれば、この様から消えて0ドルに落ちた株もあるのです。
つまり、S&P500は選ばれた大企業なわけですが、その中でも死ぬ株は死ぬのです。
この本の副題に「永続する会社が本当の利益をもたらす」とありますが、まさにその通りで潰れてしまってはどうにもなりません。
そして、PERが低い株への投資がよかったという結果から、安易にPERが低い株が良いリターンと判断すると、衰退企業にばかり投資し、死ぬ株を選ぶリスクが高まります。

その上で、私なりの解釈です。

  1. リターンは、投資家の期待と実際の利益(増益)の差である以上、投資家の期待が高い(=株価が高い=PERが高い)株で、高いリターンを得ることは容易ではない。
  2. 成長には二種類あって、投資をしなければいけない段階の成長と過去の投資から生み出される成長があり、前者の段階で投資してしまうとリターンで劣るが、後者の段階であれば成長しながら配当を手にし、その配当を再投資することで高いリターンを得られる。
  3. 実際の利益を生み出せる会社には、ビジネス上・財務上の裏づけがある。その財務上の裏づけの1つが配当と言える。

ざっとこんな感じです。それぞれ説明をしていきます。

1は殆ど書籍の内容の丸写しに近いです。あえて一言付け加えるのであれば、この条件自体は、極端にPERが安い株でも、極端に利益率が高くかつそれが継続する株でも実現できますが、過去のデータから見てもそれはイレギュラーであり、程ほどの(市場平均並かちょっと上)のPER帯の株が、高いリターンを得る確率は高いでしょう。

2は、「成長の段階」というのをあえて勝手に加えました。筆者は諌める目的なのか高成長というのをちょっと厳しく書きすぎていると思います。だから、二つに分けてみました。投資をしなくてはできない成長では、その後にしかリターンは来ませんし、さらに投資し続けないと維持できない可能性があります。しかし、今投資せずとも成長できているということは、ワイドモートと言ったりもしますが、それそのものが優位性であるため、すぐにでもリターンが来ます(経営者の判断次第ですが)。
もう一つは、投資をする(=お金を使う)ということは、経営のミスにより株主の利益を損なうリスクが高まります。しないことも不作為で競争力を失って衰退するリスクがありますが、得てしてデータは多"悪"化や過剰設備などの方が多く起こることを示唆します。

3は、利益が上がっているけど裏づけが無いということはありえないので、2と同じ内容になりますが、ワイドモートなりキャッシュフローなりの裏づけがあるのです。
そして、最大の裏づけは配当です。少なくとも配当をちゃんと払えるということは、その分のお金を生み出せているということになります。もう一つは、配当を払わずにお金を溜め込んでいるということは、それ自体がお金を腐らせる行為な上に、無駄遣いのリスクが高まるため、その点でも配当を出すということは、投資家が経営者を信頼する材料なのです。


あとがき


好調な相場環境では戒めとして、下落相場では励ましとして、再読する価値があります。それが故に、バイブルとして親しまれているのでしょう。
折を見て、また再読したいと思います。