前編からの続きです。
第九編
古の時代より有力の人物、心身を労して世のために事をなす者少なからず。今この人物の心事を想うに、豈衣食住の饒かなるをもってみずから足れりとする者ならんや。人間交際の義務を重んじて、その志すところけだし高遠にあるなり。今の学者はこの人物より文明の遺物を受けて、まさしく進歩の先鋒に立ちたるものなれば、その進むところに極度あるべからず。今より数十の星霜を経て後の文明の世に至れば、また後人をしてわが輩の徳沢を仰ぐこと、今わが輩が古人を崇むがごとくならしめざるべからず。概してこれを言えば、わが輩の職務は今日この世に居り、わが輩の生々したる痕跡を遺して遠くこれを後世子孫に伝うるの一事にあり。その任また重しと言うべし。この場合における「人間交際」とは社会のことを指します。
衣食住が足りるということで満足せず、社会に対する義務を重んじて高遠を目指す。そのような先賢から、今の人間は「文明の遺物」を受け取っている立場なわけです。
だとすれば、今の人間は、将来の世代に対し、我々の世代のものを残し、伝えていくという重大な責任があるということです。
しかし、現代社会を見ると「文明の遺物を受け取っている立場」であることを自覚している人はどれだけいるのでしょう。筆者が批判する武士のように、巻き上げた税金は当然のものとして受け取っている、それと現代人はどこまで違うのか。いや、さほど違わないのではないだろうかと思う次第です。
