2023年6月10日土曜日

LGBTQ理解増進法をごり押しする意味

はじめに

サミット前に成立……とはならなかったのものの、LGBTQ理解増進法の提出が事実上決まった情勢であり、提出されれば自公は賛成するため、他野党の動向に関わらず成立は確実かと思われます。

そもそもこの法律は必要なのか?何が問題なのか?を私見を交えて述べたいと思います。

なお、検索した限り全文はわからなかったため、法案の内容については自民党・橋本岳議員のサイトにあった資料を確認しています。

衆院に提出されました。

一部を後から追記しているため、→で追記・補足している箇所がある旨、ご了承ください。


LGBTQに対する個人的見解

まず先に、私自身がLGBTQを如何に捉えているかというと、私は当事者ではありませんが、基本的には個人単位では自由であればいいと思います。日本は歴史的にも同性愛には寛容な面を持つ文化であり、宗教上の理由もないため、国民全体の意識としても特に差別的な感情を持つというものではないと考えています。

一方で、憲法でも「公共の福祉に反しない限り」という制約があるように、例えば同性婚が認められない等の合理的な区別が、所謂シスジェンダーである一般的な人と比べてあることは妥当だと考えます。

ただし、「性的志向及び性自認の多様性に関する理解」という思想に関しては危険視しています。本稿の主要な論点ではないため、詳細は割愛しますが、下記問題点を感じます。

  • 子供の性的な理解・志向の形成に悪影響を及ぼす可能性(生物学的には異性同士で恋愛・性行為・生殖を行うものであるが、同性愛的なものに惹かれる可能性が高まる)
  • 恋愛をしようとしても、相手に様々な性的志向の可能性が考えられるとなると躊躇する可能性が高まり、晩婚化・非婚化に拍車をかける可能性
  • 同性愛カップルに何らかの手段で、子供が出来た場合、子供への影響がわからない点
  • 性的認識・志向を都合よく切り替えることで、性犯罪や性搾取が増加する可能性


この法案の問題点① LGBTQだけ別途権利を認める必要性はなにか


日本国憲法は、LGBTQに限らず全ての国民に対し、平等に基本的人権を定めています。

第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

もちろん、憲法が制定された時代には、LGBTQとか性自認・性同一性の概念は無かったと思いますが、このように新しい要素が増えたとしてもカバーできる条文になっています。

そのため、この法律案に記載されている目的というのは、既に日本国憲法で保障されていると解されるものであり、新たにLGBTQに絞った法律を作るということは、それだけ重大な問題が起きているということになるのですが、実際はどうでしょうか。

法務省のホームページには、人権相談等の統計情報が確認できます。このような法案が出る以上、性自認あるいは性的志向について多数の相談があるのかなと思ったところ、下記の通りです。


相談の総数が16万件に対し、性的志向に関する差別が47件、性自認に関する差別が81件でした。要するに、殆どLGBTQに関する問題はないのではないかと思われる内容です。

これは、人権侵犯事件のデータや、他の年月のデータでも傾向としてはほぼ同じです。なぜ、これだけしか問題は発生していないのに、LGBTQ理解増進法が必要なのか。他の法案より先に審議しなければならないのか。国民に対し説明する義務があると思います。 

正直なところ、経済や安全保障の問題、規制緩和、役人の裁量縮小、減税、少子化、外国人問題、WBPCなどの公金チューチュー問題等々、遥かに優先度の高い議題が山積しているわけで、こんなものを審議している暇は全くないと考えます。


この法案の問題点② 当事者の認識しか判断できるものがない


この法律案では、下記の定義があります。

(1)「性的指向」

恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向

(2)「性自認」(維・国案ではジェンダーアイデンティティ) 自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識

これらは、いずれも当事者の認識で決まるものです。特にトランスジェンダーについて、銭湯やトイレ等性別で分けられる空間における問題がクローズアップされていますが、客観的にこの人がトランスジェンダーかどうかわからないのに、とりわけ女性側のシスジェンダーに配慮を強制するような内容になっているというのは、一般の国民に対しては、不利益になるリスクが高いわけです。

法律として明文化するのであれば、この程度では定義として不十分であり、これらの概念が客観的にどう判断するのか。全国民が理解できるものであり、特定の思想に基づくようなものではない、憲法上保障されている普遍的な人権概念に適合するものであるべきです。


この法案の問題点③ 思想の押し付け&公金チューチュー


この法律はよく理念法という言い方がされます。しかし、これは明確に違うと思います。確かにLGBTQを差別(定義は?)してはならないと書いていますが、罰則はないから理念法という言い方をされているのかもしれませんが、単に理念を示すだけではなく、LGBTQへの理解増進を国や地方自治体、民間に要求するものになっています。
7 施策・措置等
(1) 国による 調査研究の推進
(2) 国・地方公共団体、事業主、学校の設置者・その設置する学校による 知識の着実な普及等
(3) 国・地方公共団体、事業主、学校の設置者による 相談体制の整備等
(4) 国・地方公共団体による民間団体等の活動の促進

普遍的な差別の禁止については、既に憲法に書かれています。しかし、「性的志向及び性自認の多様性に関する理解」というものは、私にはこれは特定の思想・イデオロギーに該当するものと考えます。

言い方を変えると、「政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」状態を作るために、「性的志向及び性自認の多様性に関する理解」する必要はないということになります。ざっくりそういう人もいるかもしれないねくらいの認識でも、「政治的、経済的又は社会的関係」上の配慮をすることは可能なはずで、それ以上個人の志向に関する理解を強制することは、それこそがむしろ個人の自由に対する侵害(憲法第十九条に反する)であると考えます。

しかも、この「性的志向及び性自認の多様性に関する理解」というものが、具体的に何なのか法案からはさっぱり読み取れないため、国・地方公共団体、事業主、学校はどのような内容の教育・研修を行うことになるのかわからず、その内容の決定過程もブラックボックスであることです。


さらに問題なのは、これらの「施策・措置」には、お金がかかるということです。「専門家」と称する人間が調査に関わったり、普及に必要な講師や相談員を務めるとかになれば、当然対価を支払うことになります。これは国が税金を使って特定の思想を強制するというものであり、およそ自由主義国家では認められないものです。

また、「民間団体等の活動の促進」は、今東京で発生している困難女性支援に関わる団体(所謂WBPC)の不正会計や目的・効果が不明瞭・不適切な事業への公金の支出が行われている問題に関しての反省が踏まえられているものとは思えません。これが緊急性の高い問題であれば、多少の不正があったとしても救われる人がいればいいと解することも可能ですが、先述の通りLGBTQ問題はほぼ実態はなく、緊急性の欠片もないのが実態であります。

→維新・国民民主案で成立する場合、「民間団体等の活動の促進」は条文からは消えます。ただし、付帯決議等で残る可能性もありますので、注意した方がいいと思います。


この法案の問題点④ 差別の定義が曖昧


類例というと語弊がありますが、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律だとこうなっています。

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

よく見るとサヨクが批判していた「不当な」という文言が普通に入っていたりしますが、それはさておくとしても「権利利益を侵害してはならない」という風に書かれています。

実際の細かい差別の定義は、条例にもあるようです。

LGBTQ理解増進法と違う点は、

  • 障害者が何かという点については、医学的・客観的な証拠があるため、他者から予見可能性がある。
  • LGBTQ理解増進法は、「差別はあってはならない」と曖昧で内心に踏み込みかねない内容だが、障害者差別解消法には「権利利益を侵害してはならない」と行為に関して記載されている。
だと思います。1つ目の点は、既に前段で触れていますので割愛します。

私が重要だと思うのは2点目で、先ほどの繰り返しにもなりますが、差別や多様性の理解といった内容は、内心に関わる部分であり憲法第十九条に反するものだと考えます。「権利利益を侵害してはならない」であれば、内心ではなく具体的な行為に対するものであるため、これは憲法十三条や十四条に適合するものと思います。


これは極端な例ですが、LGBTQや障害者は見たくもない、隣にいない方がいいと思っている人がいたとしても、そう思うこと自体を禁止したり罪に問うことはできません。これは思想統制であり、民主主義国家ではあってはならないものです。そして、思想だけでは、それを表に表現したり行為としない限り、他者に対し危害を加えたり不利益を与えるものではないため、人権として保障されるというのが、基本的な考え方です。

一方でそういう個人の信条や感情で、他者に対し危害を加えたり不利益を与える行為としうのは、他者の人権を具体的に侵害するものですから、これは許されないものになります。そのため、憲法の条文を具体化するために、障害者については障害者差別解消法が存在するということになります。

 

まとめ

ここまで触れて来たとおり、LGBTQ問題は緊急性があるどころか、実態に乏しく、何を守るために立法をするのかという立法事実がないわけです。あるとしたら、LGBTQ利権、サヨク利権でしょうか。

その上で、LGBTQというものに対し、客観的にそれを他者が判断する手段が無く、特定の思想を押し付けたり内心に踏み込む可能性のある内容になっており、かつ目的とするところが曖昧ということになります。

残念なことですが、障害者に対する不当とも言える差別的な取り扱いと具体的な権利侵害があったため、障害者差別解消法という法律があり、それによって許されないことが明確になり、それを啓発するための教育・研修があるわけです。

しかし、LGBTQはそのような実体的な問題がほぼないため、単なる思想の押し付けに近いものとなっており、民主主義の基本原則としても、公金の使い道という意味でも、本来抑制的にやるべき類の教育・研修を非常に安易に行おうとしているという点で、危険なものと感じました。


現下(6/10)時点の情勢では、提出された3案のうち一番マシな維新・国民民主案を自民党が丸のみして成立すると言われています。確かに民間団体に関する記述が消えたことで、公金チューチュースキームの一部が先送りされることになるという点ではマシではありますが、ここまで触れてきた本質的な問題は一切解決されていないことから、反対という点については全く変わらないものです。

残念ですが、投票行動で既成政党・議員に知らしめていく他ないと思います。少なくとも本法案に賛成している政党に対する比例区での投票、賛成している議員への選挙区の投票は控えたいと思います。


参考文献

性的マイノリティに関する偏見や差別をなくしましょう(法務省)

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00126.html

【人権侵犯事件統計 統計表】(法務省)

https://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_jinken.html

LGBT理解増進法案と銭湯について(自民党・橋本岳議員)

http://ga9.cocolog-nifty.com/blog/2023/03/post-8bde28.html

自民党提出案全文

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21105013.htm

日本維新の会・国民民主党案

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21105016.htm