2020年11月21日土曜日

目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画(クライブ・ハミルトン著)

目に見えぬ侵略
世論と政策のキーマンをどう操り、反対者を沈黙させるのか?  おそるべき影響力工作の全貌が白日の下にさらされる、禁断の書。 原著は大手出版社Aleen&Unwinと出版契約を結んでいたが刊行中止、その後も2社から断られた。 「(本書の)販売中止を決めた自粛は自己検閲だ」(フィナンシャル・タイムズ)と物議をかもし、 中国共産党の海外工作ネットワークをすべて実名入りで解明した、執念の本格研究、ついに全訳完成! 「世界各国のモデルになるのでは」とされる、ターンブル政権の外国人・企業からの献金禁止の法制化や 「スパイ活動」の定義拡大の動きに本書が先鞭をつけた。 「中国による浸透工作が半ば完了しつつあった時、強烈なウェイクアップコールとなったのが、 ハミルトン教授による本書「サイレント・インベージョン」である。本書はオーストラリアを変え、 アメリカにも大きな影響を与えた。」(監訳者解説より)

 

要約


この本は、チャイナがオーストラリアを”侵略”していく過程を白日に晒し、それによってオーストラリアの行動を変えた本だと思います。

本書の中でチャイナのやり方について、大きなポイントは以下3点だと感じました。
  1. 華僑をチャイナ共産党に従わせる僑務の存在
  2. チャイナマネー
  3. 「自由」「人種」「平等」といった西洋現代思想の徹底的な活用

まずは、僑務について。
私たち日本人を含めた、西洋……、いえ現代社会では、一般的に民族と国家というのは別の概念です。
つまり、日本人だとしても別に全ての日本人が、日本政府なり日本国と一体ではありません。具体的に言うと、日本人として日本国籍を持ち日本に住んでいれば、戦争になれば戦うと思いますが、外国に行って外国に帰化すれば、その外国人として戦うことになります。

しかし、チャイナはこれとは違う論理です。
チャイナ共産党(以下、中共)は、国籍を持つチャイナ人だけではなく、国籍を離脱したチャイナ系を含め、さらにはその子孫までも、中共の協力者として働かせることを企図しています。
そのための任務として、僑務はとても重要な役割を果たしていると指摘します。


2つ目のチャイナマネーは、日本でも比較的知名度が高いと思います。
チャイナマネーが通常の投資と異質なのは、それが全て中共の利益にそった運用をされるという点です。普通の企業は、自国政府の指導や命令に従って外国に投資することはなく、営利の追求を基本とします。だから、チャイナの投資は目的が違う以上、異なる基準が必要だと指摘します。
このような手法で自国企業を統制することは、軍事力で他国に強要するよりも安価かつリスクの低い手段を生み出します。これは「地経学」として知られます。


そして最後の西洋現代思想の徹底的な活用は、正当なチャイナへの批判や外国からの影響の規制を、レッテル張りして封じ込める典型的なやり方です。
例えば、チャイナマネーや移民について否定的な意見が出れば、それを「外国人恐怖症」と批判するといった内容です。

さらには、チャイナ留学生の活動については「寛容な言説」「多文化主義」に訴えかける一方で、ダライ・ラマを呼び大学で講演するとなれば「分離主義者」や「テロリスト」を招いてチャイナ留学生を侮辱すると主張するようなこともあるそうです。


考察


ここでは、この豪州の教訓を参考にし、日本でチャイナ勢力の浸透を食い止め、日本の中枢に影響を与えるチャイナ勢力を排除するために、どのようなことが必要なのかを考えてみたいと思います。
先ほど、上げたチャイナの侵略手法の3ポイントに対応させてみていきます。

  1. チャイナ人の入国、滞在、永住許可、帰化要件の見直し
  2. 地経学の普及、外国人献金の禁止、各種資本規制
  3. 自由を妨げる自由、秩序を妨げる権利は認めないことを明確化する。

本書から学べることは、チャイナ人は、普通の外国人とは違い、国を離れても中共の利益のために行動する存在であることを理解すべきです。もちろん、全てのチャイナ人がそうだとは言いきれないのは承知しています。しかし、そこにつけこむのが彼らのやり方であり、そしてそのような政権?王朝?を許容している以上、外国で区別されてしまうのはチャイナ人の宿命なのです。
そうであれば、普通の外国人と同じように、入国や永住等の許可を出すべきでないことは、当然の帰結であると言えましょう。

しかし、この手の内容を制度とするのは、至難の業だと思います。なぜなら、チャイナのプロパガンダとしてもそうですが、ナイーブな人とも戦わないといけないからです。

プロパガンダとナイーブな人に勝つためには、その焦点が「戦場」であることをはっきりさせ、悪く言えば「不安を大衆に煽る」ことで、世論を変えなければなりません。それを豪州で成し遂げたの本書なのでしょう。

世論ではなく、エリート層向けには、やはり地経学という新しい概念を普及させることが必要だと思います。
日本でも豪州でもそうですが、最初に「墜ちる」傾向があるのは財界です。
ここを落とされないようにするために、地経学が必要だと思います。チャイナマネーを賄賂としてもらって云々ということもありますが、多くの財界人は基本的にはチャイナの市場の大きさを、自身の機会と捉えているから、このようになっているのだと私は考えています。
しかし、チャイナの一見して機会に見えるものは、実際にそうではないかもしれないということを正しく理解するためには、地経学という概念を理解し、中共の手口を学ぶことが必要でしょう。

地経学を普及させ、エリート層に防衛の必要を理解させたとしても、実際にチャイナが札束で殴り掛かってることを止めることはできませんので、当然ながらそのお金の流れは止めなければいけません。
それが外国人献金の禁止(現行の政治資金規正法だけでは足りない!)や資本規制になります。

最後に、私が一番必要だと思うのは、「自由を妨げる自由、秩序を妨げる権利は認めない」ということです。
チャイナ人にだって、当然人権が認められるべきだと考えます。しかし、彼らが中共のコントロール下にあり、そして中共は明白な事実として、全ての人々に平等な自由や権利を保障・尊重する存在でないのです。
だからこそ、本書に出てくるチャイナ人のダブルスタンダード(チャイナ人の自由を主張しながら、ダライ・ラマや大紀元に反対する)のような形で権利を「乱用」するのです。

自由・人権・民主主義といった国際社会のメインストリームは、今までの歴史とは違う形で挑戦を受けています。しかし、人類にとってこのような価値観は、ベストかはともかくとしてベターであるということは、間違いないのではないでしょうか。
そうであれば、価値観を守るために修正された自由や権利に関する思想が出てくるものだと信じています。

個人的には、日本国憲法には、「公共の福祉」という便利な言葉がついていますので、この程度の権利の制限はさほど問題にはならないのではないかと考えています。
最も日本国憲法が権利を保障する対象は「国民」であるので、外国人に対して、それをどの程度保障するものなのかといえば、政治的な判断というのがあって然るべきということであり、つまりは国民世論によって動かすことが比較的容易な部分ではないかということです。



地政学という観点でチャイナを見るのであれば、この本がとても役に立ちます。

中国の「核」が世界を制す(伊藤貫著)


外国人の需要については、過去にもこのようなオピニオンを記載しました。

入管法改正に寄せてー日本における外国人とは