はじめに
本書は、大東亜戦争~GHQによる日本占領の前期までにおける、共産主義者の動向とそれに対峙する昭和天皇や自由保守派の暗闘を示すものです。
これらの歴史から我々が学ぶべきことは、全体主義・共産主義がどのように社会を混乱させ、自分たちの都合の良い「革命」を起こすのかという一つの流れから、警察・公安・諜報の重要性です。
その一端を知るために、本書は有用な本ではないかと思います。
要約
個人的に現代に生きる教訓となるような箇所を抜粋しました。
第一~第三章
米国に潜むソ連のスパイや共産主義者と中共は、戦時中から既に「敗戦革命」は準備していました。
そのエピソードとして、共産主義者のフロント組織に堕ちたIPR(太平洋問題調査会)というシンクタンクというものがあり、これは民間のものでしたが、日本の支那「侵略」を非難するパンフレット(中共工作員が書いた!)をばらまいたり、戦後の日本占領計画検討に影響力を持っていたりしていたようです。
さらに、ルーズベルト政権下で組織されたOSS(戦略情報局)という情報機関も対日政策に大きな影響を与えていましたが、この組織にも共産主義者が多数入り込んでおり、情報機関のトップであるドノヴァン長官までもがNKVDに対し、欧州に潜入したOSS工作員のリストをソ連に渡そうとする有様であり、国を守るための情報機関が国益を害している有様であった。
一方、中共は、日本に留学経験のある者を使い、支那事変で日本人捕虜を獲得し、それを使って、日本軍や日本政府に影響力工作をもたらすことを目論んでいました。
ソ連は、日本人を過酷に扱いバタバタ死なせたのに対し、中共は手厚くもてなして日本人側に「恩義」を感じさせ、さらに自分たちを「日本人の敵」ではなく、「日本軍国主義の敵であり、抑圧された人民の味方」という二分法に基づく(このような手法は共産主義・全体主義者が革命に多用するロジックである)プロパガンダをしたそうです。その結果、彼らは積極的に中共に対し、協力するようになったそうです。
ちなみに、この中共延安に、コミンテルンの指示で派遣されてきたのが、野坂参三です。
さらに中共は、アジアに派遣された米軍にも接触し、国民党を貶める筋金入りの中共シンパの政治顧問が、ジョセフ・スティルウェル司令官の周りを固めていたようです。
OSSと中共、野坂も連携しており、野坂はアメリカのプロパガンダへの助言を行うなどの活動をし、OSSは中共に無線通信システムは汪兆銘政権への工作資金の提供などを行っていたようです。
第四章~五章
日本の降伏で問題だった点として、一つはルーズベルト政権下における「ストロング・ジャパン派」という日本をソ連に対抗するために使うために破壊しない派が、ソ連の息がかかった「ウィーク・ジャパン派」に敗れたこと、もう一つは日本自身がこのようなアメリカにも交渉可能な勢力があったことを理解せず、ルーズベルト政権が一枚岩と視野狭窄に陥り、その結果として、ソ連和平案しかないと考えたことで、さらに視野狭窄に陥ったことです。
もう一つ、軍幹部はアメリカが破壊する「国体」が右翼全体主義になっていたのではないか、それならば、資本主義・民主主義のアメリカより、共産主義(左派全体主義)のソ連と連携する方が良いと考えたのではないかという点も指摘します。
このような流れの中で、共産主義の危険性を指摘した「近衛上奏文」や、日本の徹底抗戦による「ウィーク・ジャパン派」の勢いが衰えた事などにより、昭和天皇のご聖断に至ったとします。
考察
本書で一番重要なことは、共産主義・全体主義が一般の人にとってどのように浸透していくかということを理解するが重要であるということです。
プロパガンダの基本的な手法である「二分法」は、アメリカにおいても日本においても格差の拡大によって、説得力を持ちやすい状況になってきています。
もう一つ挙げるならばは、昭和天皇のご聖断とその後の敗戦革命寸前の状況から日本を救ったという出来事が、なぜ実現したのかということです。
当時これを実現できた要因として、昭和天皇ご自身がインテリジェンスをご理解なさっていたこと、天皇陛下に対する国民の信頼が厚く天皇陛下の元に団結ができ、なおかつ天皇陛下もまた国民を信頼し分断ではなく団結を目指したことなどが本書では挙げられています。
今の憲法下では中々このように天皇陛下が直接的に動くことは難しく、また総理大臣以下の政治家には、残念ながら全くこのような役割は期待できないように思います。
そのような中で、敵国のプロパガンダに対し、日本の国体と自由・民主主義を御旗として、団結できるのか問われる時期が今なのではないかと思います。
では、このような状況を防ぐにはどうしたらよいかというと、私は教育以外にあり得ないと思います。全体主義が強制で自国の意思を拡散するのであれば、自由主義は知性で立ち向かうしかないでしょう。そうでなければ、全体主義と同じ方向に堕ちてしまいます。
自由主義を守るために、「自由を妨げる自由、秩序を妨げる権利は認めない」という最小限の制約であることが望ましいのです。
具体的に何を教育するといえば、歴史です。ナチスドイツやソビエトの様な全体主義が撒き散らす毒とその末路、彼らの手口を学び、自由主義・民主主義が現代人類の到達点として優れていることを理解することです。
日本人はまともな教育を受けていませんので、全体主義について非常に無理解であり、そのことが、金のために中共と容易に手を組んでしまう連中が多数生まれる原因になってしまいます。実際、中共をここまで育て上げたのは日本というのは、過言ではないでしょう。