2020年5月6日水曜日

ビジネスモデル・ナビゲーター(オリヴァー・ガスマン他著)

ビジネスモデル・ナビゲーター
勝ちパターンは55。成功の秘訣はビジネスモデル革新。独ボッシュも採用する欧州発のイノベーション手法。


はじめに


こちらもTwitterで紹介されている本で興味をもったので買ってみました。
新たなビジネスモデルイノベーションをどうやって起こすかという話があり、その中で既存のビジネスモデル55種(多い!)を紹介しています。

今回は投資に役立つ本としての読書しておりますので、Part1部分のビジネスモデルイノベーションの重要性や方法論については読み飛ばしております。

私が読んで気になったビジネスモデルをご紹介し、考察を加えていこうと思います。

あらすじ


デジタル化


既存の製品やサービスのデータをデジタル製品として取り扱い、無駄の削減等のメリットを実現します。


顧客データ活用


ビジネスモデルのコンセプトは「データは新たな原油だ」

データはただそこにあるだけでは、原油と同じで役に立たないですが、収集した顧客データを利用し、データ分析を行うことで、意思決定の強力なツールになります。
これらのデータ活用には、プライバシーの問題など批判を浴びるケースもあります。


ロックイン


顧客があるベンダーやそのサプライヤーに依存しなければいけない(切り替えコストが高い)状態をいいます。
その方法は、契約で約束させる方法、専用品の購入が必要な製品から長い付き合いの営業担当を変えにくいといったものまで様々です。


サブスクリプション


顧客が製品やサービスを一定期間の間使用するもので、月などの期間単位支払うものです。企業からは安定した収入が期待でき、顧客はつど購入するよりは手間はなく、所有リスクを回避できます。


考察


これらのビジネスモデルはもちろん単一でも優れたものですが、本書が55ものビジネスモデルを紹介している(似たようなものも結構ありますが……)、既存の組み合わせの中からでもビジネスモデルイノベーションを生み出せるということにあると言います。

投資家としては、投資先の会社のビジネスモデルが何に該当するかを考えてみることにより、将来この会社が成長するのかということを考える手がかりに成り得るのではないかとともに、リスクを考えるときにも役に立ちます。


デジタル化


現代において、ライバルを含めて全くデジタル化されていない分野というのは、ほぼないでしょう。では、もう過去のビジネスモデルなのか?というとそう言い切るのは早計に感じます。
なぜなら、多くのビジネスモデルの土台になっており、またより最新のデジタル技術を用いることで効率化できる場面というはまだまだあると考えられます。

技術革新によって、既にデジタル化されているビジネスモデルさえも変わることは考えられます。
例えば、映画のレンタルにしても、最初はレンタルビデオ店でした。途中からネットで借りてポストで返却のようなやり方になり、現在ではネットフリックスのように、ネット上で映画が見れることになっていきました。
初期段階では多くの店舗に大量の在庫が必要でしたが、受付をネットのみとすれば店舗は減らせます。最終的にネット配信となれば、店舗も在庫もいらなくなります(サーバーが必要になりますけどね)。


顧客データ活用


このビジネスモデルでは、
  • その会社が適法にデータを収集しているのか?
  • 収集したデータの活用は顧客から見て納得がいくものか?
  • 収集したデータを活用して、さらにビジネスを展開できないのか?
などは考えてみたいことです。
いくらデータが、新時代の原油のように活用することで新しい価値を続々と生み出せるとしても、そのデータ活用が違法やグレーであっては理解が得られないでしょう。
どうしてもプライバシーはセンシティブな問題になります。
そして、単に自社が稼ぐだけではなく、顧客にとってデータ活用が有意義でなければいけません。それでなければ、顧客からデータの提供を止められる可能性があります。
内容にもよりますが、個人情報の場合はオプトアウトといったこともあります。
理解が得られないでは済まずに、訴訟リスクを抱えることになっているかもしれません。


ロックイン


このビジネスモデルは、一度ロックインに成功すれば安定的なキャッシュフローを得ることができます。
  • どの程度ロックインされたビジネスからキャッシュを得ているか?
  • ロックインの強さ(依存度)はどうか?
  • そのロックインされたモデルを覆される可能性はないか?
などが考えられるでしょうか。
ロックインされたビジネスが如何に強力でも、あまりキャッシュになっていなければ意味がありません(何でもそうですが)。
ロックインといっても幅広く、営業力が高いというのだと私は弱いと思います。競争力を持つ営業マンを維持・育成しなければなりませんので、人的コストが高いです。

本書で例示されるコーヒーマシンのような専用品の購入が必要な製品の場合は、より強力なロックインとはなります。
しかし、そもそもそのモデル自体がひっくり返されるような競合が現れれば、ロックインが如何に強力であっても続かないこともあるでしょう。


サブスクリプション


このモデルも猫も杓子もという感じで、いささか過熱気味の様相を呈しています。
都度購入とかしなくてよいのは便利ですし、多く使えば顧客からするとお得です。
ビジネスモデルとしては
  • 本当に継続してもらえるものなのか?
  • 投資したキャッシュを回収する算段が立っているのか?
  • サブスクリプションが適切なのか?
などが考えられるでしょうか。

最初は顧客からしても気軽に始められます。ということは逆も然り。固定費としてのしかかるその負担を見た後、顧客がさっと解約できるわけです。
つまり、サブスクリプションとして提供しているビジネスが、きちんと継続されていなければいけません。
また、この手の企業の特徴として、先行投資がとにかく多いです(典型はネットフリックス)。それを長期間、安定したキャッシュフローで回収していく想定になっています。
それが実現可能かという点は厳しくチェックすべきでしょう。

そして、最後に、本当にそのビジネスはサブスクリプションが適切なのかということも考えておきたいです。最近はとにかく流行りものに乗っているケースが多いので、本質的には意味がなかったり、既存ビジネスの価値を毀損しかねないサブスクリプションもあると思います。