2019年2月11日月曜日

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する
なぜヒトは「偶然(たまたま)」を「必然(やっぱり)」と勘違いしてしまうのか?確率、統計をうまく用え、日常に潜む「たまたま」の働きを理解する。


前書き


以前に読んだ「真実を見抜く分析力」という本の中で、推奨されていた本であり、気になっていたので気になっていました。
確率・統計といった話を、比較的平易な例を用いて説明していく一方、それらが導かれていく歴史にも紙面が割かれており、読み応えがある本です。

なので要点だけ切り出すとわかりづらくなるのですが、そこはご了承下さい。
それでは、人が偶然に騙されるポイントを示すことで、どうやって騙されないようになっていけるかと言う点を考えていければと思います。


確率の法則


その1


二つの事象がどちらも起こる確率は、それぞれが個別に起きる確率より大きくなることはない
この原則だけを抜き出すと自明のことに見えるわけですが、本文中では実験の中で、確率の論理と人間の評価の矛盾を明らかにしており、与えられた情報と頭の中で考えるシナリオが一致することで、ありそうだと考えてしまう一方、シナリオに対し不確かな情報が入ると、なさそうだと考えてしまう傾向が強いよいです。


その2


もし、起こり得る二つの事象A、Bがたがいに独立していれば、AとBの両方が起こる確率はそれぞれの単独の確率の積に等しい
何故かけるのかという点は自明なことですが、この場合のポイントは「互いに独立していること」です。
本文中には、「警察官が仕事中に殺される確率」と「既婚者が離婚する確率」の合成「既婚の警察官が離婚し、しかも同じ年に殺される確率」について、独立していない(殺されたら離婚できない)という例を挙げています。このように独立しているようで関連しているケースというのは、得てして存在します。


その3


もし、ある事象にいくつもの個別の可能な結果A、B、C…があるなら、AかBが起きる確率はAとBの個々の確率の和に等しく、すべての可能な結果の確率の和は1である
 これは法則としてみると自明でも、実際はややこしいのですが、本文中では「座席が一つ空いている飛行機で、まだ現れていない二人の乗りたい客が居る場合に、一人の不幸な客に対応する確率」のケースが出ています。「現れていない二人の客」というのは、一見独立していそうですが、二人組の客であれば計算が変わります。


可用性バイアス


本文では、具体例として「五番目にnが来る六文字の英単語」と「ingで終わる六文字の英単語」でどちらが多いかという質問に対し、後者を選ぶ人が殆どであったとしています。
当然ながら、後者は前者に包含されるわけであるため、それは有り得ないことですが、過去を再構築する際に、最も回想しやすい記憶に、重要性を与えてしまうというとバイアスが掛かっている結果なのです。
この問題は、過去の出来事や周囲の状況に対するわれわれの認識をゆがめる点にあります。


バラツキの評価


われわれが成功とか失敗とかを目にする場合、われわれはたった一点のデータ、つまりベル曲線上の一点を観察しているにすぎない。観察している一点が、はたして平均値を表しているのか、異常値を表しているのか(中略)標本点は標本点にすぎないということ、つまりそれを単純にリアリティとして受け入れるのではなく、標準偏差という文脈の中で、あるいはそれを生み出した可能性の幅の中で、それを見るべきであること。
適当な要約が思いつかないので結論部分を抜粋しました。ベル曲線とは正規分布のことを指し、標準偏差はどのくらいその曲線が広がるかを示します。
ここでの主題はランダムな誤差によってもたらせるデータのバラツキの特性を理解することです。

偶然をコントロールする錯覚と確証バイアス


人間は何かをコントロールするという心理的欲求を持っているという研究が心理学の中であります。これがランダムの事象と関係するのは、ランダムという事象を認識する能力とこの欲求が符合しないことであり、ランダムな事象をそうではないと誤認する主な原因であるからです。
さらに、人間は何かを考え付いた時に、その考えが間違っているかを証明しようと探るのではなく、正しいことを証明しようとする、「確証バイアス」と呼ばれるものがあります。そのため、ランダムな事象に対し、自身の先入観を持つと、曖昧な証拠をそれを補強する方向へ解釈してしまいます。
人間の頭脳は、間違った結論を減らす方向より、パターンを発見して確証を得る方向に向いているのです。


富は才能の結果なのか


最後に筆者は、ビル・ゲイツを例に出し、ビル・ゲイツが稼いだ富は、彼の才能と比例するのかということを書いています。詳細は省きますが、ビル・ゲイツが成功した中には、本人の才能を超えた「偶然」があることは、疑いようが無く、才能を富に比例させることは間違いだろうと結びます。もちろん、行動と報酬の関係そのものがランダムということではなく、ランダムな作用が特質や行動と同じ位重要だということです。


考察


ランダムという事象や確率を人間が正確に把握するには、人間の本能に反する部分があり、心理的なハードルが高いことがわかりました。
一方で、ランダムの世界で成功している(それもまた正規分布の範囲内?)という人も存在することは確かです。
世の中をうまく立ち回っていくには、ランダムを理解し騙されないことが肝要なのだと感じます。そして、常に悪い人間はこれを活用して、相手を騙すものです。
やりすぎには注意しつつも、ある程度相手に説得力を与えるという意味で、活用していくこともできるとよいのではないでしょうか。
(あまりこの手の本が普及しすぎると、通じなくなるかも……しれませんが)