はじめに
だいぶ昔になってしまいましたが、日経新聞で書評があり気になっていたのですが、積みの状態が長くなってしまいました。
安全保障、地政学、戦略は個人的に興味のある分野であり、その中で「大戦略(グランド・ストラテジー)」というものの一端を知ることが出来ればと思いました。
本書は、古代ギリシャのペロポネソス戦争からフランクリン・ルーズベルトまで、リベラル・アーツの考えで作られた書籍です。
グランド・ストラテジーについて、
無限になりうる願望と必ず有限の能力とを釣り合わせること。と定義しています。
この内容を直接的に論じるというよりは、過去の戦略家を重ねて、行くスタイルでグランド・ストラテジーは何かということを、読者に考えさせていくというものですが、そこに書かれている歴史もわかりやすく書かれているため、知らない人でも読めます。
考察?
本書内で対比として出てくるのが、フィッツジェラルドの「ハリネズミと狐」によるもので、願望へ突き進むことで力を発揮していくハリネズミと、周りに対する感覚にすぐれる狐というもので、この能力のバランスを取らなければいけないというのは、まさに著者が定義するグランド・ストラテジーに当てはまるものです。
本書内でこのバランスが最も(私見では)よさそうに見える人物がリンカーンです。
リンカーンは元々法律も政治も独学で学んだ、裕福ではない人物ですが、自らの目的とその為に何をしなければいけないかということの選択に長け、弁護士から下院議員となり、そして大統領になり、最終的に南北戦争を北軍の勝利に導きます。
リンカーンは対立する二つのものをうまく操り、それらに操られはしなかった
締めくくりとしてそう書かれていますが、これは他のオクタウィアヌスの例からも読み取れます。私はこれがグランド・ストラテジーのポイントで、他を操る部分が狐で操られない部分がハリネズミなのでしょう。
解説にも言及があり、著者の意図もそうではないかと思うのですが、このような大戦略は何も国家や指導者に限ったものではなく、日々の生活においてもあることです。
ストラテジーに、さらに「グランド」までついてしまったのに、実はストラテジーより身近になっていたりします。
私の身近な話でいうと、投資がやはり一番当てはまる気がします。
ハリネズミは、お金を稼ぎたいとか稼いだ後仕事とオサラバして好きなように生きようといった「欲望」。
では、狐はどこにいるのでしょうか。それが知識であり哲学であり、それに基づいて明確化されたストラテジー(もっと柔らかく言えばルール)だと思います。
ハリネズミになるのは、割と簡単なもので欲望を持ち、それを具体化するために行動していくことだけです。
問題はそこからで、ハリネズミが正しい行動をしているかを知るためには、狐が必要なのです。しかし、普通の人にとって狐は、黙って手に入るものではなく、側近といった他者に求めることも難しいでしょう。
だからこそ、人は自分の中に狐を飼うしかないのでしょう。まずは、その第一歩になるのが、狐の重要性を説く本書だと思います。